エステル記(ギリシア語)
モルデカイの夢
A
1アルタクセルクセス大王の治世の第二年、ニサンの月の一日のことである。モルデカイは夢を見た。彼は、キシュ、シムイ、ヤイルと続くベニヤミン族の家系に属していた。2モルデカイは、首都スサに住むユダヤ人であり、王宮に仕える偉大な人物であった。3彼は、バビロンの王ネブカドネツァルがエルサレムからユダヤの王エコンヤと共に連れて来た捕囚の民に属していた。
4さて、その夢とはこのようなものであった。
見よ、叫びと騒ぎ、雷と地震、そして混乱が地上に起こった。5見よ、二頭の大きな竜が現れて互いに戦いを挑み、大きな叫び声をあげた。6その声を聞いてすべての国民は戦いの準備をし、義の民に戦いを挑んだ。7見よ、闇と暗黒の日、苦しみと憂い、虐げと大いなる混乱が地上に起こった。8すべての義の民はうろたえ、ふりかかる災いを恐れ、滅ぼされることを覚悟して、9神に助けを叫び求めた。その叫びは、小さい泉が、やがて水を豊かにたたえる大河となるように、大きくなった。10すると光が現れ、太陽が昇り、卑しめられている人は高められて、高貴な者を食い尽くした。
11モルデカイは、目を覚まし、それが夢であったこと、神が何かをなさろうとしていることを知って、この夢を心にとどめ、何としてでもこの夢の意味を知りたいと思いながら、夜を迎えた。
12さて、モルデカイは、王宮の警備に当たる王の二人の宦官ガバタとタラと共に、王宮で休んでいた。13彼は二人が話していることを聞きつけ、その意図を探り出し、彼らがアルタクセルクセス王暗殺の手はずを整えていることを知った。彼は二人のことを王に告げた。14王が二人の宦官を取り調べると、自供したので、二人は死刑に処せられた。15王はこの出来事を宮廷日誌に書き留めさせ、モルデカイもそのことを書き留めておいた。16そのことの報奨として、王はモルデカイに王宮に仕えるよう命じ、贈り物を与えた。17しかし、王に仕える貴族、ブガイ人ハメダタの子ハマンは、王の二人の宦官のことで、モルデカイとその民を虐待することを心に決めた。
アルタクセルクセス王の酒宴
1
1この事件の後に起きたアルタクセルクセス王の時代の話である。当時、アルタクセルクセス王はインドにまで及ぶ百二十七州を支配し、2首都スサで王座についていた。3その治世第三年のこと、王は酒宴を開き、王の友人をはじめその他の国々の人人、ペルシアとメディアの貴族、地方総督の頭たちを招いた。4こうして、王は王国がどれほど富み、その富がどれほど華麗で輝かしいものであるかを示して、酒宴は百八十日間に及んだ。5宴の日々が終わると、王は首都にいる異国の人々のために王宮の庭で、六日間にわたる酒宴を開いた。6そこは、飾りつけが整い、大理石やいろいろな石の柱から柱へと紅白の組みひもが張り渡され、それに純白の亜麻布、見事な綿織物が一連の金や銀の環によって掛けられていた。緑、白、紅色の美しい石をはめ込んだモザイクの床には、金や銀の長いすが並べられ、色とりどりの花模様の鮮やかな覆いが掛けてあり、その縁にはばらの花がちりばめられていた。7杯は金や銀でできており、紅玉の小さい杯は一つ三万タラントンを下らなかった。ぶどう酒は王自ら愛飲しているもので、ふんだんにあり、口に甘かった。8この酒宴は定められた規定にこだわることなく行われた。これが王の望みであった。王は給仕長たちに、自分の望みどおり、人々のしたいようにさせることを命じた。9王妃ワシュティも、アルタクセルクセス王の住む宮殿で女たちのための酒宴を開いた。
王妃ワシュティの退位
10七日目のことである。上機嫌になった王は、そば近く仕える七人の宦官、ハマン、バザン、タラ、ボラゼ、ザトルタ、アバタザ、タラバに命じて、11王妃を召し出し、王座に着かせて冠を着けさせ、その美しさを長官たちと異国の人々に見せようとした。王妃が美しい人であったからである。12ところが、王妃ワシュティはその命令に従わず、宦官たちと一緒に行くことを拒んだ。王は機嫌を損ね、憤り、13王の友人たちに言った。「ワシュティはこのように言っている。この件を法に基づいて裁け。」
14そこで、王の側近で王の傍らに座る最高の地位にあるペルシアとメディアの長官アルケサイ、サルサタイ、マレセアルは進み出て、15王妃ワシュティが宦官の伝えた王の命令に従わなかった場合に、国の定めによってこの王妃をどう扱うべきかを告げた。16更に、ムカイは王と長官一同に向かって言った。「王妃ワシュティは、王ばかりでなく、長官および王に仕える指導者たちのすべてを侮辱しました。17(王は、王妃がどう言って自分に盾ついたのかを彼らに詳しく語っていた。)王妃が王に盾ついたように、18ペルシアやメディアの長官のところでも、王に対する王妃の言葉を聞いた婦人たちは、今日にでも自分の夫をさげすもうとするでしょう。19そこでお心に適いますならば、勅令をお出しになり、メディアとペルシアの定めにのっとり、『王妃ワシュティは王の前に出ることを禁ずる。王妃の位は、彼女よりも優れた者に与える』と書き記させたらいかがでしょうか。こうするしかありません。20王が定めることは、全王国に布告すべきです。そうすれば婦人たちは皆、身分のいかんにかかわらず夫を敬うようになると思われます。」21この進言は王や長官たちの意に適い、王はムカイの言葉どおりに実行した。22王は国中の州に、その民族の言語で勅書を送り、どの家庭においても男たちが敬われるようにした。
エステル、王妃に選ばれる
2
1その後、王の怒りは治まったが、王はワシュティが言ったことや彼女を罰したことを覚えていたので、もはやワシュティを召し出すことはなかった。2侍従たちは進言した。「王のために美しい汚れなきおとめらを探させましょう。3全国各州に担当の者を任命し、美しいおとめを選んで、首都スサの後宮に集め、婦人たちの監督をする宦官に託し、化粧品、その他必要な品を与えさせましょう。4その中にお気に召す女性がいましたら、ワシュティさまの代わりに王妃となさったらよろしいでしょう。」これは王の意に適い、王はそのとおり実行した。
5首都スサに一人のユダヤ人がいた。その名はモルデカイと言い、キシュ、シムイ、ヤイルと続くベニヤミン族の家系に属していた。6彼は、バビロンの王ネブカドネツァルがエルサレムから連れて来た捕囚の民の一人であった。7彼には一人の養女がおり、伯父のアミナダブの娘で、名をエステルと言った。エステルの両親が亡くなったとき以来、モルデカイは自分の妻にしようと、引き取って養っていた。エステルは美しい娘だった。
8さて、王の命令が発布され、大勢の娘が首都スサのガイのもとに集められた。エステルも、婦人たちを監督するガイのところに連れて来られた。9ガイはエステルに好感を持ち、目をかけてやった。彼は早速、化粧品や食料を支給し、エステルのために王宮から七人の女官を付け、後宮においてエステルと付き添いの女たちを優遇した。10エステルは自分の属する民族も祖国も明かさなかった。モルデカイがそれを言ってはならないと命じていたからである。11モルデカイはエステルの安否を気遣い、毎日後宮の庭の辺りを歩いていた。
12娘たちは、十二か月たつと王のもとに召されることになっていた。すなわち六か月間ミルラ香油で、次の六か月間香料と婦人の化粧品で磨きをかける期間が終わるからである。13こうして、娘は王のもとに召されるのであるが、王の指命した者が娘を託され、娘は彼に伴われて後宮から王宮に赴いた。14娘は夕方参上し、朝退去して、第二の後宮に退いた。そこは、王の宦官ガイが婦人たちの監督をしているところであった。娘は名前を呼ばれないかぎり、もはや王宮に入ることはなかった。
15モルデカイの伯父アミナダブの娘エステルが、王のもとに召される時が来た。そのとき彼女は、婦人たちを監督する宦官の命令を一つも拒むことがなかった。エステルは会う人皆に好かれていた。16さて、エステルはアルタクセルクセス王のもとに召された。それは、王の治世第七年の第十二の月、すなわちアダルの月のことであった。17王はエステルを気に入り、彼女はどのおとめにもまさって王の寵愛を受けた。こうして王はエステルに王妃の冠を授けた。18次いで王は、王の友人、廷臣をことごとく招いて七日間にわたる酒宴を開き、エステルとの結婚を祝い、国民に恩赦を与えた。
19モルデカイは王宮に仕えるようになっていた。20エステルは自分の祖国を明かすことはなかった。モルデカイは、一緒に暮らしていたときと同様に神を畏れ敬い、その掟をおろそかにしてはならないと彼女に命じていた。それでエステルは生き方を変えることはなかった。
21王の身辺護衛を務める二人の宦官は、モルデカイが登用されたことを憤慨し、アルタクセルクセス王を殺そうと謀っていた。22モルデカイはこの計画を知ると、これをエステルに伝え、彼女はこの陰謀のことを王に知らせた。23王は二人の宦官を取り調べ、絞首刑に処した。王は、モルデカイの功績を王室図書館の日誌に賛辞を付して記録しておくように命じた。
ハマン、ユダヤ人迫害を計画する
3
1さてその後、アルタクセルクセス王はブガイ人のハメダタの子ハマンを重用し、昇進させ、王の友人の中の最高の地位につけた。2王宮にいる者は皆、この人の前にひれ伏した。こうすることを王が命じたからである。ところがモルデカイはハマンの前にひれ伏さなかった。3王宮にいる者はモルデカイに言った。「モルデカイよ、なぜ王の命令に背くのか。」4人々は毎日こう言ったが、モルデカイは耳を貸さなかった。そこで人々は、モルデカイが王の命令に逆らっていることをハマンに告げた。このとき、モルデカイは自分がユダヤ人であることを彼らに明かした。5ハマンは、モルデカイが自分の前にひれ伏さないのを知って、大いに憤り、6アルタクセルクセスの王国中のユダヤ人を皆滅ぼそうと決意した。7ハマンは、アルタクセルクセス王の治世第十二年に布告を発し、くじを用いて日と月を決め、一日でモルデカイの民族を滅ぼすことにした。くじはアダルの月の十四日に当たった。8そこでハマンはアルタクセルクセス王にこう言った。「王の国の至るところに、諸民族の間に散らされて住んでいる一つの民族があります。彼らは、ほかのすべての民族と異なり、自分の法律を有して王の法律に従おうとしません。この民族をそのままにしておくことは王のためになりません。9もしおぼしめしに適いますなら、彼らを滅ぼすことを御決定ください。そうすれば私は国庫に銀貨一万タラントンを納めるようにいたします。」
10そこで王は指輪をはずし、ユダヤ人に対する裁定の書に印を押させるために、それをハマンの手に渡した。11更に王はハマンに言った。「その銀貨は取って置くがよい。その民族をお前の思いどおりにせよ。」
12こうして第一の月の十三日に、王の書記官が召集され、彼らは、インドからエチオピアに至る百二十七州すべての地方総督、長官および諸民族の首長たちにあてて、それぞれの民族の言語で、ハマンがアルタクセルクセス王の権威をもって命じることを書き記した。13そして、アルタクセルクセス王の国中に伝令が送られ、アダルの月、第十二の月のある一日をもってユダヤ民族を滅ぼし、その財産をすべて没収することが伝えられた。
勅書
B
1これがその勅書の写しである。
「アルタクセルクセス大王は、インドからエチオピアに至る百二十七州の長官、およびその下にある地方長官に書を送る。2予は多くの民族を支配し、全世界の覇権を握ったが、予の願いは権力におごり高ぶることなく、常に穏当で寛大な政治を行い、わが国民の生活を常に平穏無事に保ち、国家を整えて国境まで往来できるようにし、万民の望む平和を回復することにあった。3どうすればこれを達成することができるのか、と行政顧問官たちに尋ねたところ、我々の中で思慮分別に優れ、心変わりすることなく常に誠実であり、確かに忠実な者として知られ、国家の中で王に次ぐ地位につけられているハマンが、4予にこう指摘した。世界中の諸民族の中に、敵意を抱く一つの民族が交じっており、この民族は自分の法律に従ってあらゆる民族に反抗し、終始王たちの命令をおろそかにし、我々が申し分なく進めてきた共同の国家統制を遂行できなくしていると。5予は、唯一この民族が常に万民に逆らい、その法律に従って奇異な生活を送り、我々の政治になじまず、最大の悪事を働き、そのため国家が安定していないことを認めざるをえない。6従って、予は命ずる。我々の政治の責任者、我々の第二の父ハマンが書簡をもって指示する者を皆、女も子供も、この民族に敵する者のやいばにかけて徹底的に、情け容赦なく滅ぼさせるべきである。その日は、本年の第十二の月、アダルの月の十四日である。7こうして、昔も今も悪意に満ちた者どもは、一日にして、いやおうなしに陰府に下らされ、今後我々の政治は完全に平穏で安定したものとなるであろう。」
3
14この勅書の写しはどの地方でも公示され、その日に備えておくようにとの命令があらゆる民族に下された。15スサでもこの命令が公布された。王とハマンは町の混乱をよそに、酒に酔いしれていた。
モルデカイ、エステルを説得する
4
1モルデカイは事の一部始終を知ると、自分の衣服を裂き、粗布をまとい、灰をかぶり、町の大通りに出て、大声で叫んだ。「罪のない民族が抹殺されるのだ。」2彼は王宮の門まで来て、そこに立ち止まった。粗布をまとい、灰をかぶって宮中に入ることは許されていなかったからである。3勅書が公示された地方ではどこでも、ユダヤ人の間に大いなる叫びと嘆きと悲しみが起こり、皆粗布をまとい、灰をかぶった。
4王妃の女官と宦官が来て、起こったことを王妃エステルに告げると、王妃はそれを聞いて戸惑い、人を送り粗布を脱がせようとしてモルデカイに衣服を届けさせた。しかし、モルデカイはそれを受けなかった。5そこでエステルは、世話役、宦官アクラタイを呼んで、モルデカイのもとに遣わし、何事があったのかを正確に知ろうとした。† 7モルデカイは起こったことを宦官に告げ、ハマンがユダヤ人の絶滅のために一万タラントンを国庫に入れると王に約束したことを伝えた。8またモルデカイは、スサで公示されたユダヤ人絶滅に関する文書の写しをアクラタイに渡し、これをエステルに見せるように頼んだ。またエステル自身が王のもとに行き、自分の民族のために寛大な処置を求め、嘆願するようにとの指示を伝言させた。「あなたがわたしの手で育てられていたころの、あの身分の低かった日々を思い起こしなさい。王に次ぐ第二の地位にあるハマンが、我々に敵意を示して、死に至らしめるようなことを言っている。主に祈り求め、我々のことを王に告げ、我々を死から救ってほしい。」9アクラタイはエステルのもとに戻り、この言葉をすべて伝えた。10エステルはアクラタイに言った。「モルデカイのもとに行って、こう言いなさい。11『王国中のすべての民族に知られていることですが、王宮の奥におられる王様に、お召しもないのに近づく者は、男であれ女であれ命はないのです。ただし、王様が金の笏を差し伸べられた者に限り、死を免れるのです。三十日このかた、私にはお召しがなく、王様のもとに参っておりません。』」
12アクラタイがモルデカイにエステルの言葉をすべて伝えると、13モルデカイはアクラタイに言った。「エステルのもとに行って、こう伝えてくれ。『他のすべてのユダヤ人を差し置いて、国内で自分だけが無事でいようなどと考えてはならない。14あなたがこのような時にあたって、耳を貸さないなら、ユダヤ人の助けと守りは他の所から来るであろう。そして、あなたとあなたの父の家は滅ぼされるだろう。あなたが王妃になったのは、この時のためではなかったのか。』」
15エステルは、自分のもとに戻って来たアクラタイをモルデカイのもとに遣わして、こう言わせた。16「行って、スサにいるユダヤ人を集め、私のために断食し、三日三晩飲食を一切断たせてください。私も女官たちと共に断食いたしましょう。その後、たとえ身の破滅になろうとも、私は法を破って王様のもとに参ります。」17そこでモルデカイは行って、すべてエステルに頼まれたとおりにした。
モルデカイの祈り
C
1モルデカイは、主の御業をすべて思い起こして、主に祈った。
2「主よ、主よ、すべてを支配される王よ、
万物はあなたの主権の下にあり、
イスラエルの救いがあなたの御旨なら、
だれもあなたに立ち向かうことはできません。
3あなたは天と地、それに、
天の下すべての驚くべきものを造られました。
4あなたは万民の主、
だれも主であるあなたに逆らうことはできません。
5あなたはすべてをご存じです。
おごり高ぶるハマンの前に
わたしがひれ伏さなかったのは、
節度をわきまえなかったからでもなく、
おごり高ぶっていたからでもなく、
野心を抱いていたからでもないことを、
主よ、あなたはご存じです。
6イスラエルの救いのためなら、
彼の足の裏にさえ甘んじて接吻しましょう。
7わたしがひれ伏さなかったのは、
神の栄光の上に人の栄光を置かないためでした。
わたしは、主であるあなたのほか
何人にもひれ伏すことをしません。
それは、おごり高ぶりからではありません。
8主なる神よ、王よ、アブラハムの神よ、
今こそ、あなたの民を顧みてください。
人々は我々を滅ぼそうと付けねらい、
初めからのあなたの遺産であった民を
消し去ろうと望んでいるからです。
9御自分のためにエジプトの地から贖われた
あなたのものである民を軽んじないでください。
10わたしの祈りを聞き入れ、
あなたの取り分である民を憐れみ、
民の悲しみを喜びに変えてください。
主よ、我々が生き永らえ、
御名を賛美できますように。
あなたをたたえる者の口を
どうか滅ぼさないでください。」
11全イスラエルは、自分たちの死を目前にして、力の限り叫び求めた。
エステルの祈り
12王妃エステルは死の苦悩に襲われて、主に寄りすがった。13彼女は華麗な衣服を脱いで、憂いと悲しみの衣をまとい、高価な香料に代えて灰とあくたで頭を覆い、その身をひどく卑しめ、日ごろ喜んで飾っていた部分もすべて乱れた髪で覆った。14そして、イスラエルの神である主に祈った。
「主よ、わたしたちの王よ、
あなたは唯一なるお方、
あなたのほかに助け手を持たない
ただひとりでいるわたしを助けてください。
15危険が身近に迫っています。
16わたしは生まれた時から、
わが先祖の部族の中で聞かされてきました。
主よ、あなたはイスラエルを万民の中から、
我らの先祖をすべての先祖の中から選んで
御自分の永久の遺産とし、
イスラエルに約束したことを実現されたと。
17今あなたは、罪を犯したわたしたちを
敵の手に渡されました。
18わたしたちが敵の神々をたたえたからです。
主よ、あなたは正しい方。
19今、敵はわたしたちを奴隷として苦しめるだけでは
飽き足らず、
手を偶像の手に置いて誓い、
20あなたの口から出た定めを廃し、
あなたの遺産である民を滅ぼそうとしています。
あなたをたたえる者の口を閉ざし、
神殿と祭壇の栄光を消し、
21諸国民の口を開いて、空虚な神々をたたえさせ、
肉にすぎない王を
永遠にあがめさせようとするのです。
22主よ、あなたの王笏を無に等しいものに渡さず、
敵に我らの滅びをあざけらせないでください。
むしろ敵の計略を敵自らにふりかからせ、
率先して我らに刃向かう者を
見せしめにしてください。
23主よ、思い起こしてください。
この悩みの時、あなた御自身をお示しください。
神々を支配し、すべての主権を握る王よ、
わたしに勇気をお与えください。
24このわたしに獅子の前で雄弁な言葉を語らせ
その心を変えて我らに戦いを挑む者を憎ませ、
その仲間と共に葬り去ってください。
25御手をもってわたしたちを救ってください。
主よ、あなたのほかに頼るもののない
ただひとりでいるわたしを助けてください。
あなたはすべてをご存じです。
26わたしが律法のない人々の栄光を憎んでおり、
割礼のない人々やすべての異邦人の寝床を
忌み嫌っていることを
あなたはご存じです。
27人前に出るときに頭につける誇らかなしるしを
わたしが嫌っていることを
あなたは知っておられます。
月のもので汚れた布のようにそれを嫌い、
休息の日にはそれを着けないのです。
28あなたのはしためは、ハマンの宴にあずからず
王の饗宴を祝ったこともなく、
献げ物の酒を飲んだこともありません。
29アブラハムの神なる主よ、
わたしの運命が変わった日から今に至るまで、
あなたのはしためには、あなたのほかに
喜びとするものはありません。
30すべての人に力を及ぼされる神よ、
希望を失った者の声に耳を傾け、
我らを悪人の手から救い
わたしを恐れから解き放ってください。」
エステル、王の前に出る
D
1三日目になって、エステルは祈りを終え、礼拝用の衣を脱いで、晴れ着を身にまとった。2輝くばかりに装ったエステルは、すべてを見守る救い主なる神の加護を求め、二人の女官を招き、3その一人に優雅にそっと寄りかかり、4もう一人に衣のすそを持たせて後に従わせた。5頰を紅に染めた彼女は、たとえようもなく美しく、その顔には愛らしい笑みをたたえていたが、心は恐怖のためにおびえていた。
6エステルは王宮の扉を次々と通り抜け、王の前に立った。王は玉座に座り、きらびやかに正装し、黄金と宝石で身を飾っていた。王はことのほか厳しい様子であった。7威厳に満ちた顔を上げ、激しい怒りのまなざしでエステルを見据えた。王妃はよろめき、血の気がうせて顔色が変わり、前を歩んでいた女官の肩に倒れかかった。8ところが神は、王の気持を変えて柔和にされた。王は心配して玉座を飛び出して、王妃を腕に抱いた。やがて彼女が気を取り戻すと、優しい言葉をかけて慰めた。9王は言った。「エステルよ、どうかしたのか。わたしはお前の兄弟だ。安心するがよい。10お前を死なせはしない。予の命令は一般の民に向けられたものだ。11こちらに来なさい。」12そこで王は黄金の笏を取って、王妃の首に当てた。そして彼女を抱擁して言った。「わたしに話すがよい。」13エステルは王に言った。「主よ、あなたは神の御使いのように、私には思われました。あなたの栄光に恐れを抱き、私は心を取り乱しました。14主よ、あなたは驚くべきお方です。御顔は恵みに満ちています。」15こう話しているうちに、王妃は血の気がうせて倒れた。16王は戸惑い、従者は皆でエステルを元気づけた。
エステル、王とハマンを招待する
5
† 3王は言った。「エステルよ、何か望むことでもあるのか。願いとあれば、国の半分なりとも与えよう。」4エステルは答えた。「今日は私にとって特別な日でございます。そこで、もしも王様のお心に適いますなら、今日私が酒宴を設けますから、ハマンさまと御一緒にお出ましください。」5すると王は言った。「早速ハマンを来させなさい。エステルの言葉どおりにしてやろう。」こうして二人は、エステルが招いた酒宴に赴いた。
6王はぶどう酒を飲みながら、エステルに言った。「王妃エステルよ、どうしたのか。願いとあれば何でもかなえよう。」7エステルは答えて言った。「私の願い、私の望みとは、8もしもお心に適いますなら、明日もう一度酒宴を設けますから、ハマンさまと御一緒においでいただきたいということです。明日も同じようにおもてなしいたしましょう。」
9ハマンは大いに喜び、上機嫌で王のもとを去った。だが王宮にユダヤ人のモルデカイがいるのを見ると、非常に腹立たしくなった。10家に帰ると、友人たちと妻のゾサラを呼び、11自分の豊かな財産と王から賜った栄誉、またいかにして最高の地位につけられ、国家の統治をゆだねられたかを彼らに誇示した。12更に、ハマンは言った。「王妃は王を酒宴にお招きになったが、王様のお供として招かれたのはこのわたしだけだ。明日も招かれている。13だがそれでも、ユダヤ人のモルデカイが王宮にいるのを見れば不愉快になるのだ。」
14妻のゾサラは、ハマンの友人たちと口をそろえて言った。「五十アンマの高さの木を切り出して、モルデカイをそれにかけるよう、王様に明日の朝、進言してはいかがですか。そうすれば、あなたは王様と一緒に楽しく酒宴にあずかれます。」ハマンはこの言葉が気に入り、木の準備をさせた。
モルデカイ、王から栄誉を受ける
6
1その夜、主が王から眠りを奪われたので、王はお抱えの教師に宮廷日誌を持って来させ、読み上げさせた。2すると、モルデカイについて次のような記録があった。二人の宦官が王宮の警備に当たっていながら、アルタクセルクセス王を殺そうと謀り、これをモルデカイが知らせたというのである。3そこで王は言った。「どのような栄誉ないし恩典をモルデカイに与えたのか。」王の侍従たちは答えた。「彼には何も与えられておりません。」
4王がモルデカイの貢献について尋ねているとき、ちょうどハマンが庭に来ていた。王は尋ねた。「庭にだれかいるのか。」ハマンは、自ら準備した木にモルデカイをつるすことを王に進言するために来ていたのである。5王の侍従たちは言った。「ハマンさまが庭に来ておられます。」そこで王は、「ハマンを呼べ」と命じた。6王はハマンに尋ねた。「栄誉を与えたいと思う者がいるのだが、何をしてやったらよいだろうか。」ハマンは、王が栄誉を与えたいと思う者は自分以外にあるまいと心に思い、7王に言った。「王が栄誉をお与えになりたいのでしたら、8召し使いに王がお召しになる衣服を持って来させ、王がお乗りになる馬を引いて来させるとよいと存じます。9それらを貴族たちの中の王の友人の一人にお渡しになり、王のお気に入りのその方にその衣服を着けさせ、その馬に乗せて町の広場に導かせ、『王の御意に適った者には、このような栄誉を賜る』と、触れさせられてはいかがでございましょう。」10王はハマンに言った。「それがよい。そのとおりに、王宮に仕えるユダヤ人モルデカイにしなさい。お前が言ったことは何一つおろそかにしてはならない。」11ハマンは、王の衣服を受け取ってモルデカイに着せ、また受け取った馬に彼を乗せて町の広場に導き、「王の御意に適った者には、このような栄誉を賜る」と触れ回った。
12モルデカイは王宮に戻ったが、ハマンはこうべを垂れ、嘆きながら家路についた。13彼は身の上に起こったことを妻のゾサラと友人たちに話した。すると、その友人たちも妻も彼に言った。「もしモルデカイがユダヤ民族の出であるのなら、あなたは彼の前で卑しめられるようになり、失脚するのみです。彼に仕返しをすることはできないでしょう。生ける神が彼と共におられるからです。」14彼らがこう言っているところへ、宦官たちがやって来て、エステルの準備した酒宴に出るようにとハマンをせきたてた。
ハマン、失脚する
7
1王とハマンは、王妃と酒を酌み交わすためにやって来た。2この二日目も、王はぶどう酒を飲みながらエステルに言った。「エステル王妃よ、あなたの願いは何か、望みは何か、願いとあれば国の半分なりとも与えよう。」3王妃は答えた。「もしも王様のお心に適いますなら、私の願いにこたえて私の命を、また私の望みにこたえて私の民族を救っていただきとうございます。4と申しますのも、私と私の民は売り渡されて、滅ぼされ、略奪され、奴隷にされることになり、私たちは子供もろとも召し使いやはしためにされることになっているのでございます。私はそれを耳にしたのです。中傷する者がいることは、王宮にふさわしくありません。」5王は尋ねた。「いったい、だれがそのような大それたことをしようとしているのか。」6エステルは答えた。「その恐ろしい敵とは、この悪者ハマンでございます。」
ハマンは王と王妃の前ですっかり取り乱した。7王は、酒宴の席から立ち上がって庭に出た。そこでハマンは、王妃に命乞いをした。窮地に陥ったと見たからである。8王が庭から戻って来ると、ハマンが王妃の座っている長いすに身を投げかけて嘆願しているところであった。王は言った。「わたしの宮殿で、王妃を辱めようとさえするのか。」ハマンはそれを聞いて顔を背けた。9宦官の一人、ブガタンは王に言った。「ちょうど、木の柱がございます。王のためになることを告げてくれたモルデカイをつるそうと、ハマンが準備したものでございます。それは五十アンマの高さの木で、ハマンの家に立てられております。」「ハマンをその木にはりつけにせよ」と王は命じた。10ハマンは、モルデカイのために自分が準備した木の柱につるされ、こうして王の怒りは治まった。
8
1その日アルタクセルクセス王は、中傷者ハマンの遺産をすべて贈り物としてエステルに与えた。また、モルデカイがエステルと同族の者であることを彼女が明かしたので、モルデカイも王に召し出された。2王はハマンから取り返した指輪をモルデカイに与え、エステルはハマンの全所有物の管理をモルデカイにゆだねた。
ユダヤ人迫害、取り消される
3エステルは、再び王の前に出て言い、王の足もとにひれ伏し、ハマンのたくらんだ悪事、彼がユダヤ人に対してとった処置のすべてを無効にしてくださるようにと願った。4王が黄金の笏を差し伸べたので、エステルは身を起こし、王の前に立って、5言った。「もしもお心に適い、特別の御配慮をいただけますなら、国中のユダヤ人抹殺が記され、ハマンによって公布されたあの文書を取り消していただきとうございます。6自分の民にふりかかる災難を、どうして私が見ておられましょうか。私の親族が滅ぼされれば、私の救いなど、どうしてありえましょうか。」7王はエステルに言った。「わたしはハマンの遺産をすべてお前に与えて、お前のために配慮し、ハマンを木につるして処刑した。それは彼がユダヤ人の殺害に手を下そうとしたからである。まだ何か望みがあるのか。8お前たちもまた思いどおりに王の名によって文書を記し、わたしの指輪でそれに印を押すがよい。すべて王の命令によって書き記され、わたしの指輪で印が押された文書は何人といえどもこれに逆らってはならないからである。」
9そこで同年一月、すなわちニサンの月の二十三日に、王の書記官が召集された。そして、インドからエチオピアに至る百二十七州の行政長官たち、また、地方総督の頭たちに、各州ごとにその民族の言語で出された命令が、ユダヤ人のために書き記された。10その文書は王の名の下に書き記され、王の指輪で印が押され、使者によって伝えられた。11こうして王は命令を出し、ユダヤ人がどの町でも自分たちの律法を順守することを許し、自分たちの身を守ること、また彼らに刃向かったり敵意を抱いたりする者を思うがままに扱うことを許した。12そしてこの命令を、アルタクセルクセスの王国全土で第十二の月、すなわちアダルの月の十三日に、その日一日のうちに施行するように命じた。
勅書
E
1勅書の写しは以下のとおりである。
「アルタクセルクセス大王はインドからエチオピアに至る百二十七州の長官、および予の国家に忠実な人々に挨拶を送る。
2多くの者は、恩人からこの上もない愛顧を受けて重んじられるにつれ、ますますうぬぼれ、3予の配下の者に害を加えようとするのみならず、その地位に満足できなくなり、自分の恩人に対する陰謀まで企てるようになる。4このやからは、人々から感謝の心を取り去るばかりか、道をわきまえない人々のお世辞に乗せられて、常に万物の上に目を注いでおられる神の、悪を憎む裁きを免れうるとさえ思い込む。5また、権威ある職務に就けられた多くの者が、政務をゆだねられた友人たちの悪影響を受けて罪のない者の血の共犯者となり、致命的な災いに巻き込まれたり、6主権者たちの純粋な善意を、悪意に満ちた事実無根の偽りの言葉で欺いたりするということはしばしばあった。7我々に伝えられている古い歴史をひもとくまでもなく、こういったことは、身近に起こっていることを、たとえば権力を握る資格のない者の腐敗によって行われている犯罪を調べてみれば、明らかとなるであろう。8従って、予は将来のことに目を向け、国家を秩序あるものにして万民が平和に過ごせるようにする必要があると考える。9そのためには方針を改め、視野に入ってくることを常に公正な態度で判断しなければならない。
10ところで、ハメダタの子ハマンはマケドニア人であり、実際はペルシア人の血を引かない異国人で、予の情けを受けるには全く値しない者であったが、優遇され、11万民に対する予の友情の恩恵に浴し、その結果、『我らの父』と呼ばれ、王位に次ぐ地位にある者として万民によってあがめられるほどであった。12ところが、彼はその高慢な心を抑えきれず、予の覇権と命までも奪い取ろうとたくらみ、13予の救い手であり、常に変わらぬ功労者であるモルデカイと、非のうちどころのない王国の伴侶エステルを、彼らの民族もろとも狡猾な策略を用いて滅ぼし去ろうとしたのである。14ハマンはこのように我々を孤立させ、ペルシアの主権をマケドニア人の手に移そうと考えていたのである。15しかし、この三重にも悪らつな者によって全滅の憂き目に遭うところであったユダヤ人は悪人ではない、ということが予に明らかとなった。彼らは最も正義にかなった律法に従って生活し、16至高にして偉大な生ける神の子らであり、その神のお陰で、国家は我我のためにもまた我々の先祖のためにも最良の状態に保たれてきたのである。
17それゆえ、ハメダタの子ハマンが送付した文書は無効であると心得よ。18この犯行の張本人は、スサの城門でその家族もろともはりつけの刑に処せられたからである。それは万物の支配者である神が、彼の行いに応じて速やかに下された審判であった。19そこで、この勅書の写しをあらゆる場所に公示し、ユダヤ人に彼ら自身の生活習慣に従うことを許し、20彼らの受難の時と定められたかの日、すなわち第十二の月、アダルの月の十三日には、彼らに襲いかかろうとしていた敵を退けることができるよう、援護せよ。21全能の神が、選民の撲滅の日に代えて、喜び祝う日とされたからである。22それゆえ、あなたたちもこの記念すべき日を祝祭日の一つとして、盛大に祝え。23こうして今も、また先々までも、この日が予と忠実なペルシア人たちにとっては救いの記念となり、我々に陰謀をたくらむ者にとっては滅びの警鐘となるようにせよ。24これらの定めに従って行動しないすべての町や州は、槍と火の炎で情け容赦なく滅ぼされ、そこは、人間を踏み込ませないばかりか、獣も鳥も永久に寄せつけない所となるであろう。
8
13この勅書の写しを国中どこでも、人の目につく所に掲示せよ。またすべてのユダヤ人は、敵と戦うその日のために備えよ。」
14直ちに、馬に乗った使者たちが王の命令を公布するために出立し、スサでもこの命令が公布された。
15モルデカイは、王服をまとい、黄金の冠をかぶり、真紅の亜麻布を頭に巻いて現れた。スサの住民はそれを見て喜んだ。16ユダヤ人に光と喜びが生じた。17この命令が公布され、布告が出された町という町、州という州では、ユダヤ人は喜び祝い、杯を交わして祝い合った。また諸国民のうちの多くの者が、ユダヤ人を恐れて割礼を受け、ユダヤ人になった。
ユダヤ人の復讐
9
1第十二の月、すなわちアダルの月の十三日に、王によって発布された勅令が実施され、2その日のうちにユダヤ人の宿敵が滅ぼされた。皆ユダヤ人を恐れていたため、それに逆らうものは一人もなかった。3地方総督の頭、諸侯、王の書記官たちはユダヤ人を丁重に扱った。モルデカイを恐れていたからであり、4また、王の命令が出されて、彼の名が国中に知られるようになったからである。†
6ユダヤ人は首都スサで五百人の敵を殺した。7またファルサネスタイン、ダルフォン、ファスガ、8ファルダタ、バレア、サルバカ、9マルマシム、アルファイ、アリサイ、ザブタイと、10ユダヤ人の敵ブガイ人ハメダタの子ハマンの十人の息子を殺し、その所有物を奪い取ったのも、11その日であった。スサで滅ぼされた者の数が王のもとに報告されると、12王はエステルに言った。「ユダヤ人は首都スサで五百人の敵を滅ぼしたが、その周辺地域ではいったい、どれほどのことをしたであろうか。まだ何か願い事があるのか。あれば、かなえよう。」13エステルは王に言った。「ユダヤ人が明日もまた同じことを行うお許しをいただき、ハマンの十人の息子を木につるさせていただきとうございます。」
14王はこれを認め、首都にいるユダヤ人にハマンの息子の遺体を木につるすよう命令を下した。15そこでスサのユダヤ人は、アダルの月の十四日にも集まり、三百人の敵を殺した。しかし、何も奪い取らなかった。16王国にいる他のユダヤ人も集まって自分たちの身を守ったので、戦いから解放されて休息することができた。彼らはアダルの月の十三日に一万五千人の敵を滅ぼした。しかし、何も奪い取らなかった。17こうして同月の十四日には休み、この安息の日を喜び祝いつつ過ごした。18他方、首都スサにいるユダヤ人は十四日にも集まったが、その日には休まず、十五日を喜び祝いつつ過ごした。19こういうわけで、首都以外の地方ではどこでも、離散のユダヤ人はアダルの月の十四日を祝いの日として喜び合い、それぞれ隣人に贈り物をし、他方、首都に住むユダヤ人は、アダルの月の十五日を喜ばしい祝いの日とし、隣人に贈り物をするのである。
プリムの祭りについて
20モルデカイはこれらのことを文書にして、アルタクセルクセスの王国にいるすべてのユダヤ人に、その遠近にかかわりなく送り、21これらの日、つまりアダルの月の十四日と十五日を祝日とすることを定めた。22この両日に敵から解放され、ユダヤ人が安息できたからである。また彼らの状況が悲しみから喜びへ、苦悩から祝いの日に好転したこのアダルの月を、その全期間にわたって祝日とし、祝宴を張って喜び合い、友人や貧しい人々に贈り物をすることを定めた。23モルデカイの書き送ったことをユダヤ人は受け入れた。24すなわち、どのようにマケドニア人ハメダタの子ハマンはユダヤ人に戦いを挑み、彼らを絶滅させる布告を出し、くじを引いたのか。25また、ハマンがどのように、王の前に出てモルデカイを木につるすことを申し出たか。しかしユダヤ人の上にふりかからせようとした災いはすべて彼自身の上にふりかかることになり、彼もその息子たちも木につるされて処刑されてしまったのである。26そのため、これらの日はくじにちなんで「フルーライ」と呼ばれた。くじは、彼らの言語で「フルーライ」と言われるからである。またこう呼ばれるのは、この書簡の言葉にちなんでおり、くじのためにユダヤ人はあらゆる苦しみを受け、あらゆる出来事を経験したためである。27ユダヤ人は、モルデカイの定めたことを自分自身や、子孫およびユダヤ人に加わる者たちが守るべきこととして受け入れた。皆、将来も必ずこのことを守り続けるであろう。これらの日はいつの時代にも町という町、家という家、地方という地方で記念され、祝われるべきものである。28このフルーライの日々はいつまでも守られ、この記念は代々決しておろそかにされてはならないものである。
29王妃となったアミナダブの娘エステルとユダヤ人モルデカイは、自分たちの行ったすべてのことを記録し、フルーライに関する条項を確認した。30またモルデカイと王妃エステルは自分たちの定めたことに責任を持ち、自分たちの健康も顧みず自ら決意したことを果たした。31エステルは法令としてこれを永久に規定し、それを記念とするために書きとどめた。
モルデカイの栄誉
10
1王は、陸地と海にまたがる王国に勅書をしたため、2自分の力と勇気、その王国の富と栄光を示した。それはペルシアとメディアの歴代の王の書に書き記されている。3他方、モルデカイはアルタクセルクセス王の後見となり、王国で大いなる人物となってユダヤ人の尊敬の的となった。彼は人々に慕われ、自分の行ったことをその民すべてに詳しく語り聞かせた。
モルデカイ、夢を解く
F
1モルデカイは言った。「このようなことが起こったのは、神による以外にない。2なぜなら、わたしはこれらの事柄について見た夢のことを思い出すからだ。それらの中で実現しなかったものは、一つもない。3小さな泉があって、それが川となり、光が現れ、太陽が昇ると、豊かな水となった。その川とは、王に迎えられて王妃となったエステルのことである。4二頭の竜とは、わたしとハマンのことである。5諸国民とはユダヤ人の名を消し去るために集まった者たちのことである。6わたしの民とはイスラエルのことで、彼らは神に向かって叫び声をあげ、救われたのである。主はその民を救われ、このすべての災いからわたしたちを解き放たれた。神は、諸国民の間では起こったことのないしるしと大いなる不思議を行われた。7そのために神は二つのくじを定められた。その一つは神の民のため、もう一つはすべての国の民のためである。8この二つのくじは、すべての国の民に対して神の前で行われる裁きの時と時期と日を定めるためのものであった。9神は御自分の民を心に留め、その御自分の遺産である民を義とされた。10それゆえ、アダルの月のこれらの日、すなわちこの月の十四日と十五日は、ユダヤ人が神の前で、神の民イスラエルの間で、代々限りなく、集会をして喜び祝う日なのである。」
11プトレマイオス王とクレオパトラの治世の第四年に、祭司でありレビ人であると称するドシテオス、およびその子プトレマイオスがこの書簡をもたらした。彼らの言うところによると、これがかのフルーライの書簡であり、エルサレムの市民プトレマイオスの子リシマコスによって訳されたものである。
4章6節、5章1、2節、9章5節なし。