ヨ ブ 記
事の起こり
1
1ウツの地にヨブという人がいた。無垢な正しい人で、神を畏れ、悪を避けて生きていた。2七人の息子と三人の娘を持ち、3羊七千匹、らくだ三千頭、牛五百くびき、雌ろば五百頭の財産があり、使用人も非常に多かった。彼は東の国一番の富豪であった。
4息子たちはそれぞれ順番に、自分の家で宴会の用意をし、三人の姉妹も招いて食事をすることにしていた。5この宴会が一巡りするごとに、ヨブは息子たちを呼び寄せて聖別し、朝早くから彼らの数に相当するいけにえをささげた。「息子たちが罪を犯し、心の中で神を呪ったかもしれない」と思ったからである。ヨブはいつもこのようにした。
6ある日、主の前に神の使いたちが集まり、サタンも来た。7主はサタンに言われた。
「お前はどこから来た。」
「地上を巡回しておりました。ほうぼうを歩きまわっていました」とサタンは答えた。
8主はサタンに言われた。
「お前はわたしの僕ヨブに気づいたか。地上に彼ほどの者はいまい。無垢な正しい人で、神を畏れ、悪を避けて生きている。」
9サタンは答えた。
「ヨブが、利益もないのに神を敬うでしょうか。10あなたは彼とその一族、全財産を守っておられるではありませんか。彼の手の業をすべて祝福なさいます。お陰で、彼の家畜はその地に溢れるほどです。11ひとつこの辺で、御手を伸ばして彼の財産に触れてごらんなさい。面と向かってあなたを呪うにちがいありません。」
12主はサタンに言われた。
「それでは、彼のものを一切、お前のいいようにしてみるがよい。ただし彼には、手を出すな。」
サタンは主のもとから出て行った。
13ヨブの息子、娘が、長兄の家で宴会を開いていた日のことである。14―15ヨブのもとに、一人の召使いが報告に来た。
「御報告いたします。わたしどもが、牛に畑を耕させ、その傍らでろばに草を食べさせておりますと、シェバ人が襲いかかり、略奪していきました。牧童たちは切り殺され、わたしひとりだけ逃げのびて参りました。」
16彼が話し終らないうちに、また一人が来て言った。
「御報告いたします。天から神の火が降って、羊も羊飼いも焼け死んでしまいました。わたしひとりだけ逃げのびて参りました。」
17彼が話し終らないうちに、また一人来て言った。
「御報告いたします。カルデア人が三部隊に分かれてらくだの群れを襲い、奪っていきました。牧童たちは切り殺され、わたしひとりだけ逃げのびて参りました。」
18彼が話し終らないうちに、更にもう一人来て言った。
「御報告いたします。御長男のお宅で、御子息、御息女の皆様が宴会を開いておられました。19すると、荒れ野の方から大風が来て四方から吹きつけ、家は倒れ、若い方々は死んでしまわれました。わたしひとりだけ逃げのびて参りました。」
20ヨブは立ち上がり、衣を裂き、髪をそり落とし、地にひれ伏して言った。
21「わたしは裸で母の胎を出た。
裸でそこに帰ろう。
主は与え、主は奪う。
主の御名はほめたたえられよ。」
22このような時にも、ヨブは神を非難することなく、罪を犯さなかった。
2
1またある日、主の前に神の使いたちが集まり、サタンも来て、主の前に進み出た。2主はサタンに言われた。
「お前はどこから来た。」
「地上を巡回しておりました。ほうぼうを歩きまわっていました」とサタンは答えた。
3主はサタンに言われた。
「お前はわたしの僕ヨブに気づいたか。地上に彼ほどの者はいまい。無垢な正しい人で、神を畏れ、悪を避けて生きている。お前は理由もなく、わたしを唆して彼を破滅させようとしたが、彼はどこまでも無垢だ。」
4サタンは答えた。
「皮には皮を、と申します。まして命のためには全財産を差し出すものです。5手を伸ばして彼の骨と肉に触れてごらんなさい。面と向かってあなたを呪うにちがいありません。」
6主はサタンに言われた。
「それでは、彼をお前のいいようにするがよい。ただし、命だけは奪うな。」
7サタンは主の前から出て行った。サタンはヨブに手を下し、頭のてっぺんから足の裏までひどい皮膚病にかからせた。8ヨブは灰の中に座り、素焼きのかけらで体中をかきむしった。
9彼の妻は、
「どこまでも無垢でいるのですか。神を呪って、死ぬ方がましでしょう」と言ったが、10ヨブは答えた。
「お前まで愚かなことを言うのか。わたしたちは、神から幸福をいただいたのだから、不幸もいただこうではないか。」
このようになっても、彼は唇をもって罪を犯すことをしなかった。
11さて、ヨブと親しいテマン人エリファズ、シュア人ビルダド、ナアマ人ツォファルの三人は、ヨブにふりかかった災難の一部始終を聞くと、見舞い慰めようと相談して、それぞれの国からやって来た。12遠くからヨブを見ると、それと見分けられないほどの姿になっていたので、嘆きの声をあげ、衣を裂き、天に向かって塵を振りまき、頭にかぶった。13彼らは七日七晩、ヨブと共に地面に座っていたが、その激しい苦痛を見ると、話しかけることもできなかった。
ヨブの嘆き
3
1やがてヨブは口を開き、自分の生まれた日を呪って、2言った。
3わたしの生まれた日は消えうせよ。
男の子をみごもったことを告げた夜も。
4その日は闇となれ。
神が上から顧みることなく
光もこれを輝かすな。
5暗黒と死の闇がその日を贖って取り戻すがよい。
密雲がその上に立ちこめ
昼の暗い影に脅かされよ。
6闇がその夜をとらえ
その夜は年の日々に加えられず
月の一日に数えられることのないように。
7その夜は、はらむことなく
喜びの声もあがるな。
8日に呪いをかける者
レビヤタンを呼び起こす力ある者が
その日を呪うがよい。
9その日には、夕べの星も光を失い
待ち望んでも光は射さず
曙のまばたきを見ることもないように。
10その日が、わたしをみごもるべき腹の戸を閉ざさず
この目から労苦を隠してくれなかったから。
11なぜ、わたしは母の胎にいるうちに
死んでしまわなかったのか。
せめて、生まれてすぐに息絶えなかったのか。
12なぜ、膝があってわたしを抱き
乳房があって乳を飲ませたのか。
13それさえなければ、今は黙して伏し
憩いを得て眠りについていたであろうに。
14今は廃虚となった町々を築いた
地の王や参議らと共に
15金を蓄え、館を銀で満たした諸侯と共に。
16なぜわたしは、葬り去られた流産の子
光を見ない子とならなかったのか。
17そこでは神に逆らう者も暴れ回ることをやめ
疲れた者も憩いを得
18捕われ人も、共にやすらぎ
追い使う者の声はもう聞こえない。
19そこには小さい人も大きい人も共にいて
奴隷も主人から自由になる。
20なぜ、労苦する者に光を賜り
悩み嘆く者を生かしておかれるのか。
21彼らは死を待っているが、死は来ない。
地に埋もれた宝にもまさって
死を探し求めているのに。
22墓を見いだすことさえできれば
喜び躍り、歓喜するだろうに。
23行くべき道が隠されている者の前を
神はなお柵でふさがれる。
24日ごとのパンのように嘆きがわたしに巡ってくる。
湧き出る水のようにわたしの呻きはとどまらない。
25恐れていたことが起こった
危惧していたことが襲いかかった。
26静けさも、やすらぎも失い
憩うこともできず、わたしはわななく。
4
ヨブと三人の友の議論 一
1テマン人エリファズは話し始めた。
2あえてひとこと言ってみよう。
あなたを疲れさせるだろうが
誰がものを言わずにいられようか。
3あなたは多くの人を諭し
力を失った手を強めてきた。
4あなたの言葉は倒れる人を起こし
くずおれる膝に力を与えたものだった。
5だが、そのあなたの上に何事かふりかかると
あなたは弱ってしまう。
それがあなたの身に及ぶと、おびえる。
6神を畏れる生き方が
あなたの頼みではなかったのか。
完全な道を歩むことが
あなたの希望ではなかったのか。
7考えてみなさい。
罪のない人が滅ぼされ
正しい人が絶たれたことがあるかどうか。
8わたしの見てきたところでは
災いを耕し、労苦を蒔く者が
災いと労苦を収穫することになっている。
9彼らは神の息によって滅び
怒りの息吹によって消えうせる。
10獅子がほえ、うなっても
その子らの牙は折られてしまう。
11雄が獲物がなくて滅びれば
雌の子らはちりぢりにされる。
12忍び寄る言葉があり
わたしの耳はそれをかすかに聞いた。
13夜の幻が人を惑わし
深い眠りが人を包むころ
14恐れとおののきが臨み
わたしの骨はことごとく震えた。
15風が顔をかすめてゆき
身の毛がよだった。
16何ものか、立ち止まったが
その姿を見分けることはできなかった。
ただ、目の前にひとつの形があり
沈黙があり、声が聞こえた。
17「人が神より正しくありえようか。
造り主より清くありえようか。
18神はその僕たちをも信頼せず
御使いたちをさえ賞賛されない。
19まして人は
塵の中に基を置く土の家に住む者。
しみに食い荒らされるように、崩れ去る。
20日の出から日の入りまでに打ち砕かれ
心に留める者もないままに、永久に滅び去る。
21天幕の綱は引き抜かれ
施すすべも知らず、死んでゆく。」
5
1呼んでみよ
あなたに答える者がいるかどうか。
聖なるものをおいて、誰に頼ろうというのか。
2愚か者は怒って自ら滅び
無知な者はねたんで死に至る。
3愚か者が根を張るのを見て
わたしは直ちにその家を呪った。
4「その子らは安全な境遇から遠ざけられ
助ける者もなく町の門で打ち砕かれるがよい。
5彼らの収穫は、飢えた人が食い尽くし
その富は、渇いた人が飲み尽くし
その財産は、やせ衰えた人が奪うがよい。」
6塵からは、災いは出てこない。
土からは、苦しみは生じない。
7それなのに、人間は生まれれば必ず苦しむ。
火花が必ず上に向かって飛ぶように。
8わたしなら、神に訴え
神にわたしの問題を任せるだろう。
9計り難く大きな業を
数知れぬ不思議な業を成し遂げられる方に。
10神は地の面に雨を降らせ
野に水を送ってくださる。
11卑しめられている者を高く上げ
嘆く者を安全な境遇に引き上げてくださる。
12こざかしい者の企てを砕いて
彼らの手の業が成功することを許されない。
13知恵ある者はさかしさの罠にかかり
よこしまな者はたくらんでも熟さない。
14真昼にも、暗黒に出会い
昼も、夜であるかのように手探りする。
15神は貧しい人を剣の刃から
権力者の手から救い出してくださる。
16だからこそ、弱い人にも希望がある。
不正はその口を閉ざすであろう。
17見よ、幸いなのは
神の懲らしめを受ける人。
全能者の戒めを拒んではならない。
18彼は傷つけても、包み
打っても、その御手で癒してくださる。
19六度苦難が襲っても、あなたを救い
七度襲っても
災いがあなたに触れないようにしてくださる。
20飢饉の時には死から
戦いの時には剣から助け出してくださる。
21あなたは、陥れる舌からも守られている。
略奪する者が襲っても
恐怖を抱くことはない。
22略奪や飢饉を笑っていられる。
地の獣に恐怖を抱くこともない。
23野の石とは契約を結び
野の獣とは和解する。
24あなたは知るだろう
あなたの天幕は安全で
牧場の群れを数えて欠けるもののないことを。
25あなたは知るだろう
あなたの子孫は増え
一族は野の草のように茂ることを。
26麦が実って収穫されるように
あなたは天寿を全うして墓に入ることだろう。
27見よ、これが我らの究めたところ。
これこそ確かだ。
よく聞いて、悟るがよい。
6
1ヨブは答えた。
2わたしの苦悩を秤にかけ
わたしを滅ぼそうとするものを
すべて天秤に載せるなら
3今や、それは海辺の砂よりも重いだろう。
わたしは言葉を失うほどだ。
4全能者の矢に射抜かれ
わたしの霊はその毒を吸う。
神はわたしに対して脅迫の陣を敷かれた。
5青草があるのに野ろばが鳴くだろうか。
飼葉があるのに牛がうなるだろうか。
6味のない物を塩もつけずに食べられようか。
玉子の白身に味があろうか。
7わたしのパンが汚れたもののようになれば
わたしの魂は触れることを拒むだろう。
8神よ、わたしの願いをかなえ
望みのとおりにしてください。
9神よ、どうかわたしを打ち砕き
御手を下し、滅ぼしてください。
10仮借ない苦痛の中でもだえても
なお、わたしの慰めとなるのは
聖なる方の仰せを覆わなかったということです。
11わたしはなお待たなければならないのか。
そのためにどんな力があるというのか。
なお忍耐しなければならないのか。
そうすればどんな終りが待っているのか。
12わたしに岩のような力があるというのか。
このからだが青銅のようだというのか。
13いや、わたしにはもはや助けとなるものはない。
力も奪い去られてしまった。
14絶望している者にこそ
友は忠実であるべきだ。
さもないと
全能者への畏敬を失わせることになる。
15わたしの兄弟は流れのようにわたしを欺く。
流れが去った後の川床のように。
16流れは氷に暗く覆われることもあり
雪が解けて流れることもある。
17季節が変わればその流れも絶え
炎暑にあえば、どこかへ消えてしまう。
18そのために隊商は道に迷い
混沌に踏み込んで道を失う。
19テマの隊商はその流れを目当てにし
シェバの旅人はそれに望みをかけて来るが
20確信していたのに、裏切られ
そこまで来て、うろたえる。
21今や、あなたたちもそのようになった。
破滅を見て、恐れている。
22わたしが言ったことがあろうか
「頼む、わたしのために
あなたたちの財産を割いて
23苦しめる者の手から救い出し
暴虐な者の手からわたしを贖ってくれ」と。
24間違っているなら分からせてくれ
教えてくれれば口を閉ざそう。
25率直な話のどこが困難なのか。
あなたたちの議論は何のための議論なのか。
26言葉数が議論になると思うのか。
絶望した者の言うことを風にすぎないと思うのか。
27あなたたちは孤児をすらくじで取り引きし
友をさえ売り物にするのか。
28だが今は、どうかわたしに顔を向けてくれ。
その顔に、偽りは言わない。
29考え直してくれ
不正があってはならない。
考え直してくれ
わたしの正しさが懸っているのだ。
30わたしの舌に不正があろうか
わたしの口は滅ぼすものを
わきまえていないだろうか。
7
1この地上に生きる人間は兵役にあるようなもの。
傭兵のように日々を送らなければならない。
2奴隷のように日の暮れるのを待ち焦がれ
傭兵のように報酬を待ち望む。
3そうだ
わたしの嗣業はむなしく過ぎる月日。
労苦の夜々が定められた報酬。
4横たわればいつ起き上がれるのかと思い
夜の長さに倦み
いらだって夜明けを待つ。
5肉は蛆虫とかさぶたに覆われ
皮膚は割れ、うみが出ている。
6わたしの一生は機の梭よりも速く
望みもないままに過ぎ去る。
7忘れないでください
わたしの命は風にすぎないことを。
わたしの目は二度と幸いを見ないでしょう。
8わたしを見ている目は、やがてわたしを見失い
あなたが目を注がれても
わたしはもういないでしょう。
9密雲も薄れ、やがて消え去る。
そのように、人も陰府に下れば
もう、上ってくることはない。
10再びその家に帰ることはなく
住みかもまた、彼を忘れてしまう。
11わたしも口を閉じてはいられない。
苦悶のゆえに語り、悩み嘆いて訴えよう。
12わたしは海の怪物なのか竜なのか
わたしに対して見張りを置かれるとは。
13「床に入れば慰めもあろう
横たわれば嘆きも治まる」と思ったが
14あなたは夢をもってわたしをおののかせ
幻をもって脅かされる。
15わたしの魂は息を奪われることを願い
骨にとどまるよりも死を選ぶ。
16もうたくさんだ、いつまでも生きていたくない。
ほうっておいてください
わたしの一生は空しいのです。
17人間とは何なのか。
なぜあなたはこれを大いなるものとし
これに心を向けられるのか。
18朝ごとに訪れて確かめ
絶え間なく調べられる。
19いつまでもわたしから目をそらされない。
唾を飲み込む間すらも
ほうっておいてはくださらない。
20人を見張っている方よ
わたしが過ちを犯したとしても
あなたにとってそれが何だというのでしょう。
なぜ、わたしに狙いを定められるのですか。
なぜ、わたしを負担とされるのですか。
21なぜ、わたしの罪を赦さず
悪を取り除いてくださらないのですか。
今や、わたしは横たわって塵に返る。
あなたが捜し求めても
わたしはもういないでしょう。
8
1シュア人ビルダドは話し始めた。
2いつまで、そんなことを言っているのか。
あなたの口の言葉は激しい風のようだ。
3神が裁きを曲げられるだろうか。
全能者が正義を曲げられるだろうか。
4あなたの子らが
神に対して過ちを犯したからこそ
彼らをその罪の手にゆだねられたのだ。
5あなたが神を捜し求め
全能者に憐れみを乞うなら
6また、あなたが潔白な正しい人であるなら
神は必ずあなたを顧み
あなたの権利を認めて
あなたの家を元どおりにしてくださる。
7過去のあなたは小さなものであったが
未来のあなたは非常に大きくなるであろう。
8過去の世代に尋ねるがよい。
父祖の究めたところを確かめてみるがよい。
9わたしたちはほんの昨日からの存在で
何も分かってはいないのだから。
地上での日々は影にすぎない。
10父祖はあなたを教え導き
心に悟ったところから語りかけるであろう。
11沼地でもない所で、パピルスが育とうか
水もないところで葦が茂ろうか。
12芽を出すや否や、切られもしないのに
どんな草よりも早く枯れる。
13すべて神を忘れる者の道はこのようだ。
神を無視する者の望みは消えうせ
14頼みの綱は断ち切られる。
よりどころはくもの巣のようなもの。
15家によりかかっても家はそれに堪えず
すがりついてもそれは立ちえない。
16水があれば葦は太陽にも負けず
園に若枝を芽生えさせる。
17根を石にまつわらせ
その石と石の奥にまで入り込み
18その場所では呑み込まれたようでも
お前など知らない、と拒まれても
19葦は、生き生きと道を探り
ほかの土から芽を出す。
20そのように、無垢な人を退けることもせず
悪を行う者の手を取って
支えることもなさらない神は
21なお、あなたの口に笑いを満たし
あなたの唇に歓びの叫びを与えてくださる。
22あなたを憎む者は恥を被り
神に逆らう者の天幕は消えうせるであろう。
9
1ヨブは答えた。
2それは確かにわたしも知っている。
神より正しいと主張できる人間があろうか。
3神と論争することを望んだとしても
千に一つの答えも得られないだろう。
4御心は知恵に満ち、力に秀でておられる。
神に対して頑になりながら
なお、無傷でいられようか。
5神は山をも移される。
怒りによって山を覆されるのだと誰が知ろう。
6神は大地をその立つ所で揺り動かし
地の柱は揺らぐ。
7神が禁じられれば太陽は昇らず
星もまた、封じ込められる。
8神は自ら天を広げ、海の高波を踏み砕かれる。
9神は北斗やオリオンを
すばるや、南の星座を造られた。
10神は計り難く大きな業を
数知れぬ不思議な業を成し遂げられる。
11神がそばを通られてもわたしは気づかず
過ぎ行かれてもそれと悟らない。
12神が奪うのに誰が取り返せよう。
「何をするのだ」と誰が言いえよう。
13神は怒りを抑えられることなく
ラハブに味方する者も
神の足もとにひれ伏すであろう。
14わたしのようなものがどうして神に答え
神に対して言うべき言葉を選び出せよう。
15わたしの方が正しくても、答えることはできず
わたしを裁く方に憐れみを乞うだけだ。
16しかし、わたしが呼びかけても返事はなさるまい。
わたしの声に耳を傾けてくださるとは思えない。
17神は髪の毛一筋ほどのことでわたしを傷つけ
理由もなくわたしに傷を加えられる。
18息つく暇も与えず、苦しみに苦しみを加えられる。
19力に訴えても、見よ、神は強い。
正義に訴えても
証人となってくれるものはいない。
20わたしが正しいと主張しているのに
口をもって背いたことにされる。
無垢なのに、曲がった者とされる。
21無垢かどうかすら、もうわたしは知らない。
生きていたくない。
22だからわたしは言う、同じことなのだ、と
神は無垢な者も逆らう者も
同じように滅ぼし尽くされる、と。
23罪もないのに、突然、鞭打たれ
殺される人の絶望を神は嘲笑う。
24この地は神に逆らう者の手にゆだねられている。
神がその裁判官の顔を覆われたのだ。
ちがうというなら、誰がそうしたのか。
25わたしの人生の日々は
飛脚よりも速く飛び去り
幸せを見ることはなかった。
26葦の小舟に乗せられたかのように流れ去り
獲物を襲う鷲のように速い。
27嘆きを忘れよう
この有様を離れて立ち直りたいと言ってみても
28苦しみの一つ一つがわたしに危惧を抱かせ
無罪と認めてもらえないことがよく分かる。
29わたしは必ず罪ありとされるのだ。
なぜ、空しく労することがあろうか。
30雪解け水でからだを洗い
灰汁で手を清めても
31あなたはわたしを汚物の中に沈め
着ているものさえわたしにはいとわしい。
32このように、人間ともいえないような者だが
わたしはなお、あの方に言い返したい。
あの方と共に裁きの座に出ることができるなら
33あの方とわたしの間を調停してくれる者
仲裁する者がいるなら
34わたしの上からあの方の杖を
取り払ってくれるものがあるなら
その時には、あの方の怒りに脅かされることなく
35恐れることなくわたしは宣言するだろう
わたしは正当に扱われていない、と。
10
1わたしの魂は生きることをいとう。
嘆きに身をゆだね、悩み嘆いて語ろう。
2神にこう言おう。
「わたしに罪があると言わないでください。
なぜわたしと争われるのかを教えてください。
3手ずから造られたこのわたしを虐げ退けて
あなたに背く者のたくらみには光を当てられる。
それでいいのでしょうか。
4あなたも肉の目を持ち
人間と同じ見方をなさるのですか。
5人間同様に一生を送り
男の一生に似た歳月を送られるのですか。
6なぜわたしをとがめ立てし
過ちを追及なさるのですか
7わたしが背く者ではないと知りながら
あなたの手から
わたしを救いうる者はないと知りながら。
8御手をもってわたしを形づくってくださったのに
あなたはわたしを取り巻くすべてのものをも
わたしをも、呑み込んでしまわれる。
9心に留めてください
土くれとしてわたしを造り
塵に戻されるのだということを。
10あなたはわたしを乳のように注ぎ出し
チーズのように固め
11骨と筋を編み合わせ
それに皮と肉を着せてくださった。
12わたしに命と恵みを約束し
あなたの加護によって
わたしの霊は保たれていました。
13しかし、あなたの心に隠しておられたことが
今、わたしに分かりました。
14もし過ちを犯そうものなら
あなたはそのわたしに目をつけ
悪から清めてはくださらないのです。
15逆らおうものなら、わたしは災いを受け
正しくても、頭を上げることはできず
辱めに飽き、苦しみを見ています。
16わたしが頭をもたげようものなら
あなたは獅子のように襲いかかり
繰り返し、わたしを圧倒し
17わたしに対して次々と証人を繰り出し
いよいよ激しく怒り
新たな苦役をわたしに課せられます。
18なぜ、わたしを母の胎から引き出したのですか。
わたしなど、だれの目にも止まらぬうちに
死んでしまえばよかったものを。
19あたかも存在しなかったかのように
母の胎から墓へと運ばれていればよかったのに。
20わたしの人生など何ほどのこともないのです。
わたしから離れ去り、立ち直らせてください。
21二度と帰って来られない暗黒の死の闇の国に
わたしが行ってしまう前に。
22その国の暗さは全くの闇で
死の闇に閉ざされ、秩序はなく
闇がその光となるほどなのだ。」
11
1ナアマ人ツォファルは話し始めた。
2これだけまくし立てられては
答えないわけにいくまい。
口がうまければそれで正しいと
認められるだろうか。
3あなたの無駄口が人々を黙らせるだろうか。
嘲りの言葉を吐いて
恥をかかずに済むだろうか。
4あなたは言う。
「わたしの主張は正しい。
あなたの目にもわたしは潔白なはずだ」と。
5しかし、神があなたに対して唇を開き
何と言われるか聞きたいものだ。
6神が隠しておられるその知恵を
その二重の効果をあなたに示されたなら
あなたの罪の一部を見逃していてくださったと
あなたにも分かるだろう。
7あなたは神を究めることができるか。
全能者の極みまでも見ることができるか。
8高い天に対して何ができる。
深い陰府について何が分かる。
9神は地の果てよりも遠く
海原よりも広いのに。
10神が傍らに来て捕え、集めるなら
誰が取り返しえようか。
11神は偽る者を知っておられる。
悪を見て、放置されることはない。
12生まれたときには人間も
ろばの子のようなものだ。
しかし、愚かな者も賢くなれる。
13もし、あなたも正しい方向に思いをはせ
神に向かって手を伸べるなら
14また、あなたの手からよこしまなことを遠ざけ
あなたの天幕に不正をとどめないなら
15その時こそ
あなたは晴れ晴れと顔を上げ、動ずることなく
恐怖を抱くこともないだろう。
16その時、あなたは労苦を忘れ
それを流れ去った水のように思うだろう。
17人生は真昼より明るくなる。
暗かったが、朝のようになるだろう。
18希望があるので安心していられる。
安心して横たわるために、自分のねぐらを掘り
19うずくまって眠れば、脅かす者はない。
多くの人があなたの好意を求める。
20だが、神に逆らう者の目はかすむ。
逃れ場を失って
希望は最後の息を吐くように絶える。
12
1ヨブは答えた。
2確かにあなたたちもひとかどの民。
だが、死ねばあなたたちの知恵も死ぬ。
3あなたたち同様、わたしにも心があり
あなたたちに劣ってはいない。
だれにもそのくらいの力はある。
4神に呼びかけて
答えていただいたこともある者が
友人たちの物笑いの種になるのか。
神に従う無垢な人間が
物笑いの種になるのか。
5人の不幸を笑い、よろめく足を嘲ってよいと
安穏に暮らす者は思い込んでいるのだ。
6略奪者の天幕は栄え
神を怒らせる者
神さえ支配しようとする者は安泰だ。
7獣に尋ねるがよい、教えてくれるだろう。
空の鳥もあなたに告げるだろう。
8大地に問いかけてみよ、教えてくれるだろう。
海の魚もあなたに語るだろう。
9彼らはみな知っている。
主の御手がすべてを造られたことを。
10すべての命あるものは、肉なる人の霊も
御手の内にあることを。
11耳は言葉を聞き分け
口は食べ物を味わうではないか。
12知恵は老いた者と共にあり
分別は長く生きた者と共にあるというが
13神と共に知恵と力はあり
神と共に思慮分別もある。
14神が破壊したものは建て直されることなく
閉じ込められた人は解放されることがない。
15神が水を止めれば干ばつとなり
水を放てば地の姿は変わる。
16力も策も神と共にあり
迷うこと、迷わせることも神による。
17神は参議をはだしで行かせ
裁判官を狂いまわらせ
18王の権威を解き
腰の帯をもって彼らをつながれる。
19祭司をはだしで行かせ
地位ある者をその地位から引き降ろされる。
20信任厚い者の口を閉ざし
長老の判断を失わせ
21自由な者に嘲りを浴びせかけ
強い者の帯を断ち切られる。
22神は暗黒の深い底をあらわにし
死の闇を光に引き出される。
23国々を興し、また滅ぼし
国々を広げ、また限られる。
24この地の民の頭たちを混乱に陥れ
道もなく茫漠としたさかいをさまよわせられる。
25光もなく、彼らは闇に手探りし
酔いしれたかのように、さまよう。
13
1そんなことはみな、わたしもこの目で見
この耳で聞いて、よく分かっている。
2あなたたちの知っていることぐらいは
わたしも知っている。
あなたたちに劣ってはいない。
3わたしが話しかけたいのは全能者なのだ。
わたしは神に向かって申し立てたい。
4あなたたちは皆、偽りの薬を塗る
役に立たない医者だ。
5どうか黙ってくれ
黙ることがあなたたちの知恵を示す。
6わたしの議論を聞き
この唇の訴えに耳を傾けてくれ。
7神に代わったつもりで、あなたたちは不正を語り
欺いて語るのか。
8神に代わったつもりで論争するのか。
そんなことで神にへつらおうというのか。
9人を侮るように神を侮っているが
神に追及されてもよいのか。
10たとえひそかにでも、へつらうなら
神は告発されるであろう。
11その威厳は、あなたたちを脅かし
恐れがふりかかるであろう。
12あなたたちの主張は灰の格言
弁護は土くれの盾にすぎない。
13黙ってくれ、わたしに話させてくれ。
どんなことがふりかかって来てもよい。
14たとえこの身を自分の歯にかけ
魂を自分の手に置くことになってもよい。
15そうだ、神はわたしを殺されるかもしれない。
だが、ただ待ってはいられない。
わたしの道を神の前に申し立てよう。
16このわたしをこそ
神は救ってくださるべきではないか。
神を無視する者なら
御前に出るはずはないではないか。
17よく聞いてくれ、わたしの言葉を。
わたしの言い分に耳を傾けてくれ。
18見よ、わたしは訴えを述べる。
わたしは知っている、わたしが正しいのだ。
19わたしのために争ってくれる者があれば
もはや、わたしは黙って死んでもよい。
20ただ、やめていただきたいことが二つあります
御前から逃げ隠れはいたしませんから。
21わたしの上から御手を遠ざけてください。
御腕をもって脅かすのをやめてください。
22そして、呼んでください、お答えします。
わたしに語らせてください、返事をしてください。
23罪と悪がどれほどわたしにあるのでしょうか。
わたしの罪咎を示してください。
24なぜ、あなたは御顔を隠し
わたしを敵と見なされるのですか。
25風に舞う木の葉のようなわたしをなお震えさせ
乾いたもみ殻のようなわたしを追いまわされる。
26わたしに対して苦い定めを書き記し
若い日の罪をも今なお負わせられる。
27わたしに足枷をはめ、行く道を見張り続け
一歩一歩の跡を刻みつけておかれる。
28このようにされれば
だれでもしみに食われた衣のようになり
朽ち果てるほかはありません。
14
1人は女から生まれ、人生は短く
苦しみは絶えない。
2花のように咲き出ては、しおれ
影のように移ろい、永らえることはない。
3あなたが御目を開いて見ておられるのは
このような者なのです。
このようなわたしをあなたに対して
裁きの座に引き出されるのですか。
4汚れたものから清いものを
引き出すことができましょうか。
だれひとりできないのです。
5人生はあなたが定められたとおり
月日の数もあなた次第。
あなたの決定されたことを人は侵せない。
6御目をこのような人間からそらせてください。
彼の命は絶え
傭兵のようにその日を喜ぶでしょう。
7木には希望がある、というように
木は切られても、また新芽を吹き
若枝の絶えることはない。
8地におろしたその根が老い
幹が朽ちて、塵に返ろうとも
9水気にあえば、また芽を吹き
苗木のように枝を張る。
10だが、人間は死んで横たわる。
息絶えれば、人はどこに行ってしまうのか。
11海の水が涸れ
川の流れが尽きて干上がることもあろう。
12だが、倒れ伏した人間は
再び立ち上がることなく
天の続くかぎりは
その眠りから覚めることがない。
13どうか、わたしを陰府に隠してください。
あなたの怒りがやむときまで
わたしを覆い隠してください。
しかし、時を定めてください
わたしを思い起こす時を。
14人は死んでしまえば
もう生きなくてもよいのです。
苦役のようなわたしの人生ですから
交替の時が来るのをわたしは待ち望んでいます。
15呼んでください、わたしはお答えします。
御手の業であるわたしを尋ね求めてください。
16その時には、わたしの歩みを数えてください。
わたしの過ちにもはや固執することなく
17わたしの罪を袋の中に封じ込め
わたしの悪を塗り隠してください。
18しかし、山が崩れ去り
岩がその場から移され
19水が石を打ち砕き
大地が塵となって押し流される時が来ても
人の望みはあなたに絶たれたままだ。
20あなたは人をいつまでも攻め、追いやられる。
あなたは彼の顔かたちを変えて、追い払われる。
21その子らが名誉を得ても、彼は知ることなく
彼らが不幸になっても、もう悟らない。
22彼はひとり、その肉の痛みに耐え
魂の嘆きを忍ぶだけだ。
15
ヨブと三人の友の議論 二
1テマン人エリファズは答えた。
2知恵ある者が空虚な意見を述べたり
その腹を東風で満たしたりするであろうか。
3無益な言葉をもって論じたり
役に立たない論議を重ねたりするであろうか。
4あなたは神を畏れ敬うことを捨て
嘆き訴えることをやめた。
5あなたの口は罪に導かれて語り
舌はこざかしい論法を選ぶ。
6あなたを罪に定めるのはわたしではなく
あなた自身の口だ。
あなたの唇があなたに不利な答えをするのだ。
7あなたは最初の人間として生まれたのか。
山より先に生まれたのか。
8神の奥義を聞き
知恵を自分のものとしたのか。
9あなたの知っていることで
わたしたちの知らないことがあろうか。
わたしたちには及びもつかないことを
あなたが悟れるというのか。
10わたしたちの中には白髪の老人もあり
あなたの父より年上の者もある。
11神の慰めなどは取るに足らない
優しい言葉は役に立たない、というのか。
12なぜ、あなたは取り乱すのか。
なぜ、あなたの目つきはいらだっているのか。
13神に向かって憤りを返し
そんな言葉を口に出すとは何事か。
14どうして、人が清くありえよう。
どうして、女から生まれた者が
正しくありえよう。
15神は聖なる人々をも信頼なさらず
天すら、神の目には清くない。
16まして人間は、水を飲むように不正を飲む者
憎むべき汚れた者なのだ。
17あなたに語ろう、聞きなさい。
わたしに示されたことを告げよう。
18それは賢者たちの示したところ
それを彼らの父祖も隠さなかった。
19これらの父祖にのみ、この地は与えられており
異国の者が侵すことはなかった。
20さて、悪人の一生は不安に満ち
暴虐な者の生きる年数も限られている。
21その耳には恐ろしい騒音が響く。
平安のさなかに略奪者が彼を襲うのだ。
22暗黒を逃れうるとはもう信じられない。
彼の前には剣が待つのみだ。
23彼はパンを求めてどことも知らずにさまよい
暗黒の訪れる時が間近いことを知る。
24苦しみと悩みが彼を脅かし
戦いを挑む王のように攻めかかる。
25彼は神に手向かい
全能者に対して傲慢にふるまい
26厚い盾をかざして
頑に神に向かって突進した。
27顔は脂ぎって
腰にはぜい肉がついていたが
28滅ぼされた町、無人となった家
瓦礫となる運命にある所に
彼は住まねばならないであろう。
29再び富むことなく、力も永らえず
その家畜は地に広がらない。
30彼は暗黒から逃れられない。
熱風がその若枝を枯らし
神の口の息が吹き払う。
31惑わされてむなしいものを信じるな。
その報いはむなしい。
32時が来る前に枯れ
枝はその緑を失う。
33未熟な実を荒らされるぶどうの木
花を落とすオリーブの木のようになる。
34神を無視する者の一族に子は生まれず
賄賂を好む者の天幕は火に焼き尽くされる。
35彼は苦しみをはらみ、災いを生む。
その腹は欺きをはぐくむ。
16
1ヨブは答えた。
2そんなことを聞くのはもうたくさんだ。
あなたたちは皆、慰める振りをして苦しめる。
3「無駄口はやめよ」とか
「何にいらだって
そんな答えをするのか」と言う。
4わたしがあなたたちの立場にあったなら
そのようなことを言っただろうか。
あなたたちに対して多くの言葉を連ね
あなたたちに向かって頭を振り
5口先で励まし
唇を動かすことをやめなかっただろうか。
6語っても苦しみはやまず
黙っていても、それは去りません。
7もう、わたしは疲れ果てました。
わたしの一族をあなたは圧倒し
8わたしを絞り上げられます。
このわたしの姿が証人となり
わたしに代わって抗議するでしょう。
9神がわたしを餌食として、怒りを表されたので
敵はわたしを憎んで牙をむき、鋭い目を向ける。
10彼らは大口を開けて嘲笑い
頰を打って侮辱し
一団となってわたしに向かって来る。
11神は悪を行う者にわたしを引き渡し
神に逆らう者の手に任せられた。
12平穏に暮らしていたわたしを神は打ち砕き
首を押さえて打ち据え
的として立て
13弓を射る者に包囲させられた。
彼らは容赦なく、わたしのはらわたを射抜き
胆汁は地に流れ出た。
14神は戦士のように挑みかかり
わたしを打ち破り、なお打ち破る。
15わたしは粗布を肌に縫い付け
わたしの角と共に塵の中に倒れ伏した。
16泣きはらした顔は赤く
死の闇がまぶたのくまどりとなった。
17わたしの手には不法もなく
わたしの祈りは清かったのに。
18大地よ、わたしの血を覆うな
わたしの叫びを閉じ込めるな。
19このような時にも、見よ
天にはわたしのために証人があり
高い天には
わたしを弁護してくださる方がある。
20わたしのために執り成す方、わたしの友
神を仰いでわたしの目は涙を流す。
21人とその友の間を裁くように
神が御自分とこの男の間を裁いてくださるように。
22僅かな年月がたてば
わたしは帰らぬ旅路に就くのだから。
17
1息は絶え、人生の日は尽きる。
わたしには墓があるばかり。
2人々はなお、わたしを嘲り
わたしの目は夜通し彼らの敵意を見ている。
3あなた自ら保証人となってください。
ほかの誰が
わたしの味方をしてくれましょう。
4彼らの心を覆って目覚めることのないようにし
彼らを高く上げないでください。
5「利益のために友を裏切れば
子孫の目がつぶれる。」
6この格言はわたしのことだと人は言う。
わたしは顔につばきされる者。
7目は苦悩にかすみ
手足はどれも影のようだ。
8正しい人よ、これに驚け。
罪のない人よ
神を無視する者に対して奮い立て。
9神に従う人はその道を守り
手の清い人は更に勇気をもて。
10あなたたちは皆、再び集まって来るがよい。
あなたたちの中に知恵ある者はいないのか。
11わたしの人生は過ぎ去り
わたしの計画も心の願いも失われた。
12夜は昼となり
暗黒の後に光が近づくと人は言うが
13わたしは陰府に自分のための家を求め
その暗黒に寝床を整えた。
14墓穴に向かって「あなたはわたしの父」と言い
蛆虫に向かって「わたしの母、姉妹」と言う。
15どこになお、わたしの希望があるのか。
誰がわたしに希望を見せてくれるのか。
16それはことごとく陰府に落ちた。
すべては塵の上に横たわっている。
18
1シュア人ビルダドは答えた。
2いつまで言葉の罠の掛け合いをしているのか。
まず理解せよ、それから話し合おうではないか。
3なぜ、わたしたちを獣のように見なすのか。
その目に愚か者とするのか。
4怒りによって自らを引き裂く者よ
あなたのために地が見捨てられ
岩がその場所から移されるだろうか。
5神に逆らう者の灯はやがて消え
その火の炎はもはや輝かず
6その天幕の灯は暗黒となり
彼を照らす光は消える。
7彼の力強い歩みも弱まり
自分自身の策略に倒れる。
8足は網に捕えられ
落とし穴に踏み込む。
9かかとは罠にかかり
仕掛けられた網に捕まる。
10綱が地に隠されて張り巡らされ
行く道に仕掛けが待ち伏せている。
11破滅が四方から彼を脅かし
彼の足を追い立てる。
12その子は飢え
妻は災いに遭う。
13死の初子が彼の肢体をむしばみ
その手足をむしばむ。
14彼はよりどころとする天幕から引き出され
破滅の王に向かって一歩一歩引き寄せられる。
15彼の天幕には他人が住み
その住みかには硫黄がまかれる。
16下ではその根が枯れ
上では枝がしおれる。
17彼の思い出は地上から失われ
その名はもう地の面にはない。
18彼は光から暗黒へと追いやられ
この世から追放される。
19子孫はその民の内に残らず
住んだ所には何ひとつ残らない。
20未来の人々は彼の運命に慄然とし
過去になった人々すら
身の毛のよだつ思いをする。
21ああ、これが不正を行った者の住まい
これが神を知らぬ者のいた所か、と。
19
1ヨブは答えた。
2どこまであなたたちはわたしの魂を苦しめ
言葉をもってわたしを打ち砕くのか。
3侮辱はもうこれで十分だ。
わたしを虐げて恥ずかしくないのか。
4わたしが過ちを犯したのが事実だとしても
その過ちはわたし個人にとどまるのみだ。
5ところが、あなたたちは
わたしの受けている辱めを誇張して
論難しようとする。
6それならば、知れ。
神がわたしに非道なふるまいをし
わたしの周囲に砦を巡らしていることを。
7だから、不法だと叫んでも答えはなく
救いを求めても、裁いてもらえないのだ。
8神はわたしの道をふさいで通らせず
行く手に暗黒を置かれた。
9わたしの名誉を奪い
頭から冠を取り去られた。
10四方から攻められてわたしは消え去る。
木であるかのように
希望は根こそぎにされてしまった。
11神はわたしに向かって怒りを燃やし
わたしを敵とされる。
12その軍勢は結集し
襲おうとして道を開き
わたしの天幕を囲んで陣を敷いた。
13神は兄弟をわたしから遠ざけ
知人を引き離した。
14親族もわたしを見捨て
友だちもわたしを忘れた。
15わたしの家に身を寄せている男や女すら
わたしをよそ者と見なし、敵視する。
16僕を呼んでも答えず
わたしが彼に憐れみを乞わなければならない。
17息は妻に嫌われ
子供にも憎まれる。
18幼子もわたしを拒み
わたしが立ち上がると背を向ける。
19親友のすべてに忌み嫌われ
愛していた人々にも背かれてしまった。
20骨は皮膚と肉とにすがりつき
皮膚と歯ばかりになって
わたしは生き延びている。
21憐れんでくれ、わたしを憐れんでくれ
神の手がわたしに触れたのだ。
あなたたちはわたしの友ではないか。
22なぜ、あなたたちまで神と一緒になって
わたしを追い詰めるのか。
肉を打つだけでは足りないのか。
23どうか
わたしの言葉が書き留められるように
碑文として刻まれるように。
24たがねで岩に刻まれ、鉛で黒々と記され
いつまでも残るように。
25わたしは知っている
わたしを贖う方は生きておられ
ついには塵の上に立たれるであろう。
26この皮膚が損なわれようとも
この身をもって
わたしは神を仰ぎ見るであろう。
27このわたしが仰ぎ見る
ほかならぬこの目で見る。
腹の底から焦がれ、はらわたは絶え入る。
28「我々が彼を追い詰めたりするだろうか」と
あなたたちは言う。
この有様の根源がわたし自身にあると
あなたたちは言う。
29あなたたちこそ、剣を危惧せよ。
剣による罰は厳しい。
裁きのあることを知るがよい。
20
1ナアマ人ツォファルは答えた。
2さまざまな思いがわたしを興奮させるので
わたしは反論せざるをえない。
3あなたの説はわたしに対する非難と聞こえる。
明らかにすることを望んで、答えよう。
4あなたも知っているだろうが
昔、人が地上に置かれたときから
5神に逆らう者の喜びは、はかなく
神を無視する者の楽しみは、つかの間にすぎない。
6たとえ彼が天に達するほど
頭が雲に達するほど上って行っても
7自分の汚物と同様、永久に失われ
探す者は、「どこへ行ってしまったのか」
と言わなければならなくなる。
8夢のように飛び去り
夜の幻のように消えうせ
だれも見いだすことはないだろう。
9彼を見ていた目はもう彼を見ることなく
彼のいた所も二度と彼を見ない。
10その子らは貧しい人々に償いをし
子孫は奪った富を返済しなければならない。
11若さがその骨に溢れていたが
それも彼と共に塵の上に伏すことになろう。
12悪が口に甘いからと
舌で抑えて隠しておき
13惜しんで吐き出さず
口の中に含んでいれば
14そのパンは胃の中に入って
コブラの毒と変わる。
15呑み込んだ富は吐き出さなければならない。
神は彼の腹からそれを取り上げられる。
16彼の飲んだのはコブラの毒。
蝮の舌が彼を殺す。
17彼は蜂蜜と乳脂の流れる川の
その流れを見ることはない。
18労して獲たものをも呑み込まずに返し
商いで富を得ても楽しむことはない。
19なぜなら、貧しい人々を虐げ見捨て
自ら建てもしない家を奪い取ったから。
20その腹は満足することを知らず
欲望から逃れられず
21食い尽くして、何も残さない。
それゆえ、彼の繁栄は長くは続かず
22豊かさの極みにあって欠乏に陥り
すべて労苦する手が彼を襲う。
23腹を満たそうとすれば
神は燃える怒りを注ぎ
それをパンとして彼に浴びせかける。
24鉄の武器から逃れても
青銅の弓が彼を射抜き
25矢は彼を貫いて背中に出る。
それは胆汁にぬれて光り
神の威力が彼を圧倒する。
26暗黒が彼の宝を待ち構え
吹き起こされたのでもない火が彼をなめ尽くし
天幕に残っているものをも滅ぼし尽くす。
27天は彼の罪を暴き
地は彼に対して立ち上がる。
28神の怒りの日に、洪水が起こり
大水は彼の家をぬぐい去る。
29神に逆らう者が神から受ける分
神の命令による嗣業はこれだ。
21
1ヨブは答えた。
2どうか、わたしの言葉を聞いてくれ。
聞いてもらうことがわたしの慰めなのだ。
3我慢して、わたしに話をさせてくれ。
わたしが話してから、嘲笑うがいい。
4わたしは人間に向かって訴えているのだろうか。
なぜ、我慢しなければならないのか。
5わたしに顔を向けてくれ。
そして驚き、口に手を当てるがよい。
6わたし自身、これを思うと慄然とし
身震いが止まらない。
7なぜ、神に逆らう者が生き永らえ
年を重ねてなお、力を増し加えるのか。
8子孫は彼らを囲んで確かに続き
その末を目の前に見ることができる。
9その家は平和で、何の恐れもなく
神の鞭が彼らに下ることはない。
10彼らの雄牛は常に子をはらませ
雌牛は子を産んで、死なせることはない。
11彼らは羊の群れのように子供を送り出し
その子らは踊り跳ね
12太鼓や竪琴に合わせて歌い
笛を吹いて楽しむ。
13彼らは幸せに人生を送り
安らかに陰府に赴く。
14彼らは神に向かって言う。
「ほうっておいてください。
あなたに従う道など知りたくもない。
15なぜ、全能者に仕えなければならないのか。
神に祈って何になるのか。」
16だが、彼らは財産を手にしているではないか。
神に逆らう者の考えはわたしから遠い。
17神に逆らう者の灯が消され、災いが襲い
神が怒って破滅を下したことが何度あろうか。
18藁のように風に吹き散らされ
もみ殻のように
突風に吹き飛ばされたことがあろうか。
19神は彼への罰を
その子らの代にまで延ばしておかれるのか。
彼自身を罰して
思い知らせてくださればよいのに。
20自分の目で自分の不幸を見
全能者の怒りを飲み干せばよいのだ。
21人生の年月が尽きてしまえば
残された家はどうなってもよいのだから。
22「人が神に知識を授けえようか。
彼は高きにいまし、裁きを行われる」と言う。
23ある人は、死に至るまで不自由なく
安泰、平穏の一生を送る。
24彼はまるまると太り
骨の髄まで潤っている。
25また、ある人は死に至るまで悩み嘆き
幸せを味わうこともない。
26だが、どちらも塵に横たわれば
等しく、蛆に覆われるではないか。
27あなたたちの考えはよく分かっている。
わたしに対して不法にも悪をたくらんでいるのだ。
28「あの高潔な人の館はどうなり
この神に逆らう者の住まいとした天幕は
どうなったのか」とあなたたちは問う。
29通りかかる人々に尋ねなかったのか。
両者の残した証しを
否定することはできないであろう。
30悪人が災いの日を免れ
怒りの日を逃れているのに
31誰が面と向かってその歩んできた道を暴き
誰がその仕業を罰するだろうか。
32彼は葬式の行列によって運ばれ
その墓には番人も立ち
33谷間の土くれさえ彼には快さそうだ。
人は皆彼の後に続き
彼の前にも、人は数えきれない。
34それなのに空しい言葉で
どのようにわたしを慰めるつもりか。
あなたたちの反論は欺きにすぎない。
22
ヨブと三人の友の議論 三
1テマン人エリファズは答えた。
2人間が神にとって有益でありえようか。
賢い人でさえ、有益でありえようか。
3あなたが正しいからといって全能者が喜び
完全な道を歩むからといって
神の利益になるだろうか。
4あなたが神を畏れ敬っているのに
神があなたを責め
あなたを裁きの座に引き出されるだろうか。
5あなたは甚だしく悪を行い
限りもなく不正を行ったのではないか。
6あなたは兄弟から質草を取って何も与えず
既に裸の人からなお着物をはぎ取った。
7渇き果てた人に水を与えず
飢えた人に食べ物を拒んだ。
8腕力を振るう者が土地をわがものとし
もてはやされている者がそこに住む。
9あなたはやもめに何も与えず追い払い
みなしごの腕を折った。
10だからこそ
あなたの周りには至るところに罠があり
突然の恐れにあなたはおびえる。
11また、暗黒に包まれて何も見えず
洪水があなたを覆っているので
12あなたは言う。
「神がいますのは高い天の上で
見よ、あのように高い星の群れの頭なのだ。」
13だからあなたは言う。
「神が何を知っておられるものか。
濃霧の向こうから裁くことができようか。
14雲に遮られて見ることもできず
天の丸天井を行き来されるだけだ」と。
15あなたは昔からの道に
悪を行う者の歩んだ道に気をつけよ。
16彼らは時ならずして、取り去られ
流れがその基までぬぐい去った。
17神に向かって彼らは言っていた。
「ほうっておいてくれ
全能者と呼ばれる者に何ができる。」
18それに対してあなたは言った。
「神はその彼らの家を富で満たされる。
神に逆らう者の考えはわたしから遠い。」
19神に従う人なら見抜いて喜び
罪のない人なら嘲笑って言うであろう。
20「彼らの財産は確かに無に帰し
残ったものも火になめ尽くされる。」
21神に従い、神と和解しなさい。
そうすれば、あなたは幸せになるだろう。
22神が口ずから授ける教えを受け
その言葉を心に納めなさい。
23もし、全能者のもとに立ち帰り
あなたの天幕から不正を遠ざけるなら
あなたは元どおりにしていただける。
24黄金を塵の中に
オフィルの金を川床に置くがよい。
25全能者こそがあなたの黄金
あなたにとっての最高の銀となり
26あなたは全能者によって喜びを得
神に向かって顔を上げ
27あなたが祈れば聞き入れられ
満願の献げ物をすることもできるだろう。
28あなたが決意することは成就し
歩む道には光が輝くことだろう。
29倒れている者に、立ち上がれとあなたが言えば
目を伏せていた者は救われる。
30清くない者すら
あなたの手の潔白によって救われる。
23
1ヨブは答えた。
2今日も、わたしは苦しみ嘆き
呻きのために、わたしの手は重い。
3どうしたら、その方を見いだせるのか。
おられるところに行けるのか。
4その方にわたしの訴えを差し出し
思う存分わたしの言い分を述べたいのに。
5答えてくださるなら、それを悟り
話しかけてくださるなら、理解しよう。
6その方は強い力を振るって
わたしと争われるだろうか。
いや、わたしを顧みてくださるだろう。
7そうすれば、わたしは神の前に正しいとされ
わたしの訴えはとこしえに解決できるだろう。
8だが、東に行ってもその方はおられず
西に行っても見定められない。
9北にひそんでおられて、とらえることはできず
南に身を覆っておられて、見いだせない。
10しかし、神はわたしの歩む道を
知っておられるはずだ。
わたしを試してくだされば
金のようであることが分かるはずだ。
11わたしの足はその方に従って歩み
その道を守って、離れたことはない。
12その唇が与えた命令に背かず
その口が語った言葉を胸に納めた。
13神がいったん定められたなら
だれも翻すことはできない。
神は望むがままに行われる。
14わたしのために定めたことを実行し
ほかにも多くのことを定めておられる。
15それゆえ、わたしは御顔におびえ
考えれば考えるほど、恐れる。
16神はわたしの勇気を失わせ
全能者はわたしをおびえさせる。
17わたしは暗黒を前にし
目の前には闇が立ちこめているのに
なぜ、滅ぼし尽くされずにいるのか。
24
1なぜ、全能者のもとには
さまざまな時が蓄えられていないのか。
なぜ、神を愛する者が
神の日を見ることができないのか。
2人は地境を移し
家畜の群れを奪って自分のものとし
3みなしごのろばを連れ去り
やもめの牛を質草に取る。
4乏しい人々は道から押しのけられ
この地の貧しい人々は身を隠す。
5彼らは野ろばのように
荒れ野に出て労し、食べ物を求め
荒れ地で子に食べさせるパンを捜す。
6自分のものでもない畑で刈り入れをさせられ
悪人のぶどう畑で残った房を集める。
7着る物もなく裸で夜を過ごし
寒さを防ぐための覆いもない。
8山で激しい雨にぬれても
身を避ける所もなく、岩にすがる。
9父のない子は母の胸から引き離され
貧しい人の乳飲み子は人質に取られる。
10彼らは身にまとう物もなく、裸で歩き
麦束を運びながらも自分は飢え
11並び立つオリーブの間で油を搾り
搾り場でぶどうを踏みながらも渇く。
12町では、死にゆく人々が呻き
刺し貫かれた人々があえいでいるが
神はその惨状に心を留めてくださらない。
13光に背く人々がいる。
彼らは光の道を認めず
光の射すところにとどまろうとしない。
14人殺しは夜明け前に起き
貧しい者、乏しい者を殺し
夜になれば盗みを働く。
15姦淫する者の目は、夕暮れを待ち
だれにも見られないように、と言って顔を覆う。
16暗黒に紛れて家々に忍び入り
日中は閉じこもって、光を避ける。
17このような者には、朝が死の闇だ。
朝を破滅の死の闇と認めているのだ。
18「大水に遭えば彼はたちまち消え去る。
この地で彼の嗣業は呪われ
そのぶどう畑に向かう者もいなくなる。
19暑さと乾燥が雪解け水をも消し去るように
陰府は罪人を消し去るだろう。
20母の胎も彼を忘れ
蛆が彼を好んで食い
彼を思い出す者もなくなる
不正な行いは木のように折れ砕ける。
21彼は不妊の女を不幸に落とし
やもめに幸福を与えることはなかった。
22権力者が力を振るい、成功したとしても
その人生は確かではない。
23安穏に生かされているようでも
その歩む道に目を注いでおられる方がある。
24だから、しばらくは栄えるが、消え去る。
すべて衰えてゆくものと共に倒され
麦の穂のように刈り取られるのだ。」
25だが、そうなってはいないのだから
誰が、わたしをうそつきと呼び
わたしの言葉をむなしいものと
断じることができようか。
25
1シュア人ビルダドは答えた。
2恐るべき支配の力を神は御もとにそなえ
天の最も高いところに平和を打ち立てられる。
3まことにその軍勢は数限りなく
その光はすべての人の上に昇る。
4どうして、人が神の前に正しくありえよう。
どうして、女から生まれた者が清くありえよう。
5月すらも神の前では輝かず
星も神の目には清らかではない。
6まして人間は蛆虫
人の子は虫けらにすぎない。
26
1ヨブは答えた。
2あなた自身はどんな助けを力のない者に与え
どんな救いを無力な腕にもたらしたというのか。
3どんな忠告を知恵のない者に与え
どんな策を多くの人に授けたというのか。
4誰の言葉を取り次いで語っているのか。
誰の息吹があなたを通して吹いているのか。
5亡者たち、陰府の淵に住む者たちは
水の底でのたうち回る。
6陰府も神の前ではあらわであり
滅びの国も覆われてはいない。
7神は聖なる山を茫漠としたさかいに横たわらせ
大地を空虚の上につるされた。
8密雲の中に水を蓄えられても
雲の底は裂けない。
9神は御自分の雲を広げて
玉座を覆い隠される。
10原始の海の面に円を描いて
光と暗黒との境とされる。
11天の柱は揺らぎ
その𠮟咤に動転する。
12神は御力をもって海を制し
英知をもってラハブを打たれた。
13風をもって天をぬぐい
御手は逃げる大蛇を刺し貫いた。
14だが、これらは神の道のほんの一端。
神についてわたしたちの聞きえることは
なんと僅かなことか。
その雷鳴の力強さを誰が悟りえよう。
27
1ヨブは更に言葉をついで主張した。
2わたしの権利を取り上げる神にかけて
わたしの魂を苦しめる全能者にかけて
わたしは誓う。
3神の息吹がまだわたしの鼻にあり
わたしの息がまだ残っているかぎり
4この唇は決して不正を語らず
この舌は決して欺きを言わない、と。
5断じて、あなたたちを正しいとはしない。
死に至るまで、わたしは潔白を主張する。
6わたしは自らの正しさに固執して譲らない。
一日たりとも心に恥じるところはない。
7わたしに敵対する者こそ罪に定められ
わたしに逆らう者こそ不正とされるべきだ。
8神に命を断たれ、魂を取り上げられるのだから
神を無視する者にどんな望みがあろうか。
9災いが彼に臨むとき
その叫びを神は聞いてくださるだろうか。
10全能者によって喜びを得
常に神を呼び求めることができるだろうか。
11わたしがあなたたちに神の手の業を示し
全能者について隠さずに語ろう。
12あなたたち自身、それを仰いだのに
なぜ、空しいことを繰り返すのか。
13神に逆らう者が神から受ける分
暴虐な者が全能者から与えられる嗣業は
次のとおり。
14たとえ多くの息子があっても、剣にかかり
子孫は食べ物にも事欠く。
15残った者が死んで葬られても
やもめたちは泣くことすらしない。
16土を盛るように銀を積み
粘土を備えるように衣服を備えても
17その備えた衣服は正しい人が着
その銀は潔白な人の所有となる。
18家を建てても、しみの巣のよう
番人の作る仮小屋のようなものだ。
19寝るときには豊かであっても、それが最後
目を開けば、もう何ひとつない。
20破滅が洪水のように彼を襲い
つむじ風が夜の間にさらう。
21東風に運び去られて、彼は消えうせ
その住まいから吹き払われる。
22神は彼に襲いかかり、許さない。
御手から逃れようと彼はあがく。
23神は彼に向かって手をたたき
その住まいから彼を吹き飛ばす。
28
神の知恵の賛美
1銀は銀山に産し
金は金山で精錬する。
2鉄は砂から採り出し
銅は岩を溶かして得る。
3人は暗黒の果てまでも行き
死の闇の奥底をも究めて鉱石を捜す。
4地上からはるか深く坑道を掘り
行き交う人に忘れられ
地下深く身をつり下げて揺れている。
5食物を産み出す大地も
下は火のように沸き返っている。
6鉱石にはサファイアも混じり
金の粒も含まれている。
7猛禽もその道を知らず
はげ鷹の目すら、それを見つけることはできない。
8獅子もそこを通らず
あの誇り高い獣もそこを踏んだことはない。
9だが人は、硬い岩にまで手を伸ばし
山を基から掘り返す。
10岩を切り裂いて進み
価値あるものを見落とすことはない。
11川の源をせき止め
水に隠れていたものも光のもとに出す。
12では、知恵はどこに見いだされるのか
分別はどこにあるのか。
13人間はそれが備えられた場を知らない。
それは命あるものの地には見いだされない。
14深い淵は言う
「わたしの中にはない。」
海も言う
「わたしのところにもない。」
15知恵は純金によっても買えず
銀幾らと価を定めることもできない。
16オフィルの金も美しい縞めのうも
サファイアも、これに並ぶことはできない。
17金も宝玉も知恵に比べられず
純金の器すらこれに値しない。
18さんごや水晶は言うに及ばず
真珠よりも知恵は得がたい。
19クシュのトパーズも比べられず
混じりない金もこれに並ぶことはできない。
20では、知恵はどこから来るのか
分別はどこにあるのか。
21すべて命あるものの目にそれは隠されている。
空の鳥にすら、それは姿を隠している。
22滅びの国や死は言う
「それについて耳にしたことはある。」
23その道を知っているのは神。
神こそ、その場所を知っておられる。
24神は地の果てまで見渡し
天の下、すべてのものを見ておられる。
25風を測って送り出し
水を量って与え
26雨にはその降る時を定め
稲妻にはその道を備えられる。
27神は知恵を見、それを計り
それを確かめ、吟味し
28そして、人間に言われた。
「主を畏れ敬うこと、それが知恵
悪を遠ざけること、それが分別。」
29
ヨブの嘆き
1ヨブは言葉をついで主張した。
2どうか、過ぎた年月を返してくれ
神に守られていたあの日々を。
3あのころ、神はわたしの頭上に
灯を輝かせ
その光に導かれて
わたしは暗黒の中を歩いた。
4神との親しい交わりがわたしの家にあり
わたしは繁栄の日々を送っていた。
5あのころ、全能者はわたしと共におられ
わたしの子らはわたしの周りにいた。
6乳脂はそれで足を洗えるほど豊かで
わたしのためには
オリーブ油が岩からすら流れ出た。
7わたしが町の門に出て
広場で座に着こうとすると
8若者らはわたしを見て静まり
老人らも立ち上がって敬意を表した。
9おもだった人々も話すのをやめ
口に手を当てた。
10指導者らも声をひそめ
舌を上顎に付けた。
11わたしのことを聞いた耳は皆、祝福し
わたしを見た目は皆、賞賛してくれた。
12わたしが身寄りのない子らを助け
助けを求める貧しい人々を守ったからだ。
13死にゆく人さえわたしを祝福し
やもめの心をもわたしは生き返らせた。
14わたしは正義を衣としてまとい
公平はわたしの上着、また冠となった。
15わたしは見えない人の目となり
歩けない人の足となった。
16貧しい人々の父となり
わたしにかかわりのない訴訟にも尽力した。
17不正を行う者の牙を砕き
その歯にかかった人々を奪い返した。
18わたしはこう思っていた
「わたしは家族に囲まれて死ぬ。
人生の日数は海辺の砂のように多いことだろう。
19わたしは水際に根を張る木
枝には夜露を宿すだろう。
20わたしの誉れは常に新しく
わたしの弓はわたしの手にあって若返る。」
21人々は黙して待ち望み
わたしの勧めに耳を傾けた。
22わたしが語れば言い返す者はなく
わたしの言葉は彼らを潤した。
23雨を待つように
春の雨に向かって口を開くように
彼らはわたしを待ち望んだ。
24彼らが確信を失っているとき
わたしは彼らに笑顔を向けた。
彼らはわたしの顔の光を
曇らせることはしなかった。
25わたしは嘆く人を慰め
彼らのために道を示してやり
首長の座を占め
軍勢の中の王のような人物であった。
30
1だが今は、わたしより若い者らが
わたしを嘲笑う。
彼らの父親を羊の番犬と並べることすら
わたしは忌まわしいと思っていたのだ。
2その手の力もわたしの役には立たず
何の気力も残っていないような者らだった。
3無一物で飢え、衰え
荒涼とした砂漠や沼地をさまよい
4あかざの葉を摘み
れだまの根を食糧としていた。
5彼らは世間から追われ
泥棒呼ばわりされ
6身震いさせるような谷間や
土の穴、岩の裂け目に宿り
7茨の間で野ろばのようにいななき
あざみの下に群がり合っていた。
8愚か者、名もない輩
国からたたき出された者らだった。
9ところが今は、わたしが彼らのはやし歌の種
嘲りの言葉を浴びる身になってしまった。
10彼らはわたしを忌み嫌って近寄らず
平気で顔に唾を吐きかけてくる。
11彼らは手綱を振り切り、わたしを辱め
くつわを捨てて勝手にふるまう。
12彼らは生意気にもわたしの右に立ち
わたしを追い出し、災いの道を行かせ
13逃げ道を断ち、滅びに追いやろうとする。
それを止めてくれる者はない。
14襲って来て甚だしく打ち破り
押し寄せて来て廃虚にする。
15死の破滅がわたしを襲い
わたしの力は風に吹きさらわれ
わたしの救いは雲のように消え去った。
16もはや、わたしは息も絶えんばかり
苦しみの日々がわたしを捕えた。
17夜、わたしの骨は刺すように痛み
わたしをさいなむ病は休むことがない。
18病は肌着のようにまつわりつき
その激しさにわたしの皮膚は
見る影もなく変わった。
19わたしは泥の中に投げ込まれ
塵芥に等しくなってしまった。
20神よ
わたしはあなたに向かって叫んでいるのに
あなたはお答えにならない。
御前に立っているのに
あなたは御覧にならない。
21あなたは冷酷になり
御手の力をもってわたしに怒りを表される。
22わたしを吹き上げ、風に乗せ
風のうなりの中でほんろうなさる。
23わたしは知っている。
あなたはわたしを死の国へ
すべて命あるものがやがて集められる家へ
連れ戻そうとなさっているのだ。
24人は、嘆き求める者に手を差し伸べ
不幸な者を救おうとしないだろうか。
25わたしは苦境にある人と共に
泣かなかったろうか。
貧しい人のために心を痛めなかったろうか。
26わたしは幸いを望んだのに、災いが来た。
光を待っていたのに、闇が来た。
27わたしの胸は沸き返り
静まろうとしない。
苦しみの日々がわたしに襲いかかっている。
28光を見ることなく、嘆きつつ歩き
人々の中に立ち、救いを求めて叫ぶ。
29山犬の兄弟となり
駝鳥の仲間となったかのように
30わたしの皮膚は黒くなって、はげ落ち
骨は熱に焼けただれている。
31喪の調べをわたしの竪琴は奏で
悲しみの歌をわたしの笛は歌う。
31
1わたしは自分の目と契約を結んでいるのに
どうしておとめに目を注いだりしようか。
2上から神がくださる分は何か
高きにいます全能者のお与えになるものは何か。
3不正を行う者には災いを
悪を行う者には外敵をお与えになるではないか。
4神はわたしの道を見張り
わたしの歩みをすべて数えておられるではないか。
5わたしがむなしいものと共に歩き
この足が欺きの道を急いだことは、決してない。
もしあるというなら
6正義を秤として量ってもらいたい。
神にわたしの潔白を知っていただきたい。
7わたしの歩みが道を外れ
目の向くままに心が動いたことは、決してない。
この手には、決して汚れはない。
もしあるというなら
8わたしの蒔いたものを他人が食べてもよい。
わたしの子孫は根絶やしにされてもよい。
9わたしが隣人の妻に心奪われたり
門で待ち伏せたりしたことは、決してない。
もしあるというなら
10わたしの妻が他人のために粉をひき
よその男に犯されてもよい。
11それは恥ずべき行為であり
裁かれるべき罪なのだから
12滅びの国までも焼き尽くす火が
わたしの収穫を根まで焼き尽くしてもよい。
13わたしが奴隷たちの言い分を聞かず
はしための権利を拒んだことは、決してない。
もしあるというなら
14神が裁きに立たれるとき
わたしが何をなしえよう。
神が調べられるとき何と答えられよう。
15わたしを胎内に造ってくださった方が
彼らをもお造りになり
我々は同じ方によって
母の胎に置かれたのだから。
16わたしが貧しい人々を失望させ
やもめが目を泣きつぶしても顧みず
17食べ物を独り占めにし
みなしごを飢えさせたことは、決してない。
18いや、わたしは若いころから
父となって彼らを育て
母の胎を出たときから
やもめたちを導く者であった。
19着る物もなく弱り果てている人や
からだを覆う物もない貧しい人を
わたしが見過ごしにしたことは、決してない。
20彼らは常にわたしの羊の毛でからだを暖めて
感謝したのだ。
21わたしが裁きの座で味方の多いのをいいことにして
みなしごに手を振り上げたことは、決してない。
もしあるというなら
22わたしの腕は肩から抜け落ちてもよい。
肘が砕けてもよい。
23神の下される災いをわたしは恐れる。
その怒りには堪えられない。
24わたしが黄金を頼みとし
純金があれば安心だと思い
25財宝の多いことを喜び
自分の力を強大だと思ったことは、決してない。
26太陽の輝き、満ち欠ける月を仰いで
27ひそかに心を迷わせ
口づけを投げたことは、決してない。
もしあるというなら
28これもまた、裁かれるべき罪である。
天にいます神を否んだことになるのだから。
29わたしを憎む者の不幸を喜び
彼が災いに遭うのを見て
わたしがはやしたてたことは、決してない。
30呪いをかけて人の命を求めることによって
自分の口が罪を犯すのを許したことは
決してない。
31わたしの天幕に住んでいた人々が
「彼が腹いっぱい肉をくれればよいのに」
と言ったことは決してない。
32見知らぬ人さえ野宿させたことはない。
わが家の扉はいつも旅人に開かれていた。
33わたしがアダムのように自分の罪を隠し
咎を胸の内に秘めていたことは、決してない。
もしあるというなら
34群衆の前に震え、一族の侮りにおののき
黙して門の内にこもっていただろう。
35どうか、わたしの言うことを聞いてください。
見よ、わたしはここに署名する。
全能者よ、答えてください。
わたしと争う者が書いた告訴状を
36わたしはしかと肩に担い
冠のようにして頭に結び付けよう。
37わたしの歩みの一歩一歩を彼に示し
君主のように彼と対決しよう。
38わたしの畑がわたしに対して叫び声をあげ
その畝が泣き
39わたしが金を払わずに収穫を奪って食べ
持ち主を死に至らしめたことは、決してない。
もしあるというなら
40小麦の代わりに茨が生え
大麦の代わりに雑草が生えてもよい。
ヨブは語り尽くした。
エリフの言葉
32
1ここで、この三人はヨブに答えるのをやめた。ヨブが自分は正しいと確信していたからである。
2さて、エリフは怒った。この人はブズ出身でラム族のバラクエルの子である。ヨブが神よりも自分の方が正しいと主張するので、彼は怒った。3また、ヨブの三人の友人が、ヨブに罪のあることを示す適切な反論を見いだせなかったので、彼らに対しても怒った。4彼らが皆、年長だったので、エリフはヨブに話しかけるのを控えていたが、5この三人の口から何の反論も出ないのを見たので怒ったのである。
6ブズ人バラクエルの子、エリフは言った。
わたしは若く
あなたたちは年をとっておられる。
だからわたしは遠慮し
わたしの意見をあえて言わなかった。
7日数がものを言い
年数が知恵を授けると思っていた。
8しかし、人の中には霊があり
悟りを与えるのは全能者の息吹なのだ。
9日を重ねれば賢くなるというのではなく
老人になればふさわしい分別ができるのでもない。
10それゆえ、わたしの言うことも聞いてほしい。
わたしの意見を述べてみたいと思う。
11わたしはあなたたちの言葉を待ち
その考えに耳を傾け
言葉を尽くして論じるのを聞き
12その論拠を理解しようとした。
だが、あなたたちの中にはヨブを言い伏せ
彼の言葉に反論しうる者がない。
13「いい知恵がある。
彼を負かすのは神であって人ではないと言おう」
などと考えるべきではない。
14ヨブはわたしに対して議論したのではないが
わたしはあなたたちのような論法で
答えようとは思わない。
15彼らは気を挫かれて、答えようとせず
言うべき言葉を失っている。
16わたしは待ったが、彼らは語らず
行き詰まり、もう答えようとしない。
17それならわたしが
自分の言い分を述べさせてもらおう。
わたしの意見を言わせてもらおう。
18言いたいことはたくさんある。
腹の内で霊がわたしを駆り立てている。
19見よ、わたしの腹は封じられたぶどう酒の袋
新しい酒で張り裂けんばかりの革袋のようだ。
20わたしも話して、気持を静めたい。
唇を開いて、答えたい。
21いや、わたしはだれの顔を立てようともしない。
人間にへつらうことはしたくない。
22気づかずにへつらうようなことを言ったら
どうか造り主が
直ちにわたしを退けてくださるように。
33
1さてヨブよ、わたしの言葉を聞き
わたしの言うことによく耳を傾けよ。
2見よ、わたしは口を開き
舌は口の中で動き始める。
3わたしの言葉はわたしの心を率直に表し
唇は知っていることをはっきりと語る。
4神の霊がわたしを造り
全能者の息吹がわたしに命を与えたのだ。
5答えられるなら、答えてみよ。
備えをして、わたしの前に立て。
6神の前では、わたしもあなたと同じように
土から取られたひとかけらのものにすぎない。
7見よ、わたしには脅かすような威力はない。
あなたを押さえつけようとしているのではない。
8あなたが話すのはわたしの耳に入り
声も言葉もわたしは聞いた。
9「わたしは潔白で、罪を犯していない。
わたしは清く、とがめられる理由はない。
10それでも神はわたしに対する不満を見いだし
わたしを敵視される。
11わたしに足枷をはめ
行く道を見張っておられる。」
12ここにあなたの過ちがある、と言おう。
神は人間よりも強くいます。
13なぜ、あなたは神と争おうとするのか。
神はそのなさることを
いちいち説明されない。
14神は一つのことによって語られ
また、二つのことによって語られるが
人はそれに気がつかない。
15人が深い眠りに包まれ、横たわって眠ると
夢の中で、夜の幻の中で
16神は人の耳を開き
懲らしめの言葉を封じ込められる。
17人が行いを改め、誇りを抑え
18こうして、その魂が滅亡を免れ
命が死の川を渡らずに済むようにされる。
19苦痛に責められて横たわる人があるとする。
骨のうずきは絶えることなく
20命はパンをいとい
魂は好みの食べ物をすらいとう。
21肉は消耗して見えなくなり
見えなかった骨は姿を現し
22魂は滅亡に
命はそれを奪うものに近づいてゆく。
23千人に一人でもこの人のために執り成し
その正しさを示すために
遣わされる御使いがあり
24彼を憐れんで
「この人を免除し、滅亡に落とさないでください。
代償を見つけて来ました」と言ってくれるなら
25彼の肉は新しくされて
若者よりも健やかになり
再び若いときのようになるであろう。
26彼は神に祈って受け入れられ
歓びの叫びの内に御顔を仰ぎ
再び神はこの人を正しいと認められるであろう。
27彼は人々の前でたたえて歌うであろう。
「わたしは罪を犯し
正しいことを曲げた。
それはわたしのなすべきことではなかった。
28しかし神はわたしの魂を滅亡から救い出された。
わたしは命を得て光を仰ぐ」と。
29まことに神はこのようになさる。
人間のために、二度でも三度でも。
30その魂を滅亡から呼び戻し
命の光に輝かせてくださる。
31ヨブよ、耳を傾けて
わたしの言うことを聞け。
沈黙せよ、わたしに語らせよ。
32わたしに答えて言うことがあるなら、語れ。
正しい主張を聞くのがわたしの望みだ。
33言うことがなければ、耳を傾けよ。
沈黙せよ、わたしがあなたに知恵を示そう。
34
1エリフは更に言った。
2知恵ある者はわたしの言葉を聞き
知識ある者はわたしに耳を傾けよ。
3耳は言葉を聞き分け
口は食べ物を味わう。
4わたしたちは何が正しいかを見分け
何が善いかを識別しよう。
5ヨブはこう言っている。
「わたしは正しい。
だが神は、この主張を退けられる。
6わたしは正しいのに、うそつきとされ
罪もないのに、矢を射かけられて傷ついた。」
7ヨブのような男がいるだろうか。
水に代えて嘲りで喉をうるおし
8悪を行う者にくみし
神に逆らう者と共に歩む。
9「神に喜ばれようとしても
何の益もない」と彼は言っている。
10さて、分別ある者は、わたしの言葉を聞け。
神には過ちなど、決してない。
全能者には不正など、決してない。
11神は人間の行いに従って報い
おのおのの歩みに従って与えられるのだ。
12神が罪を犯すことは決してない。
全能者は正義を曲げられない。
13誰が神に全地をゆだね
全世界を負わせたというのか。
14もし神が御自分にのみ、御心を留め
その霊と息吹を御自分に集められるなら
15生きとし生けるものは直ちに息絶え
人間も塵に返るだろう。
16理解しようとして、これを聞け。
わたしの語る声に耳を傾けよ。
17正義を憎む者が統治できようか。
正しく、また、力強いお方を
あなたは罪に定めるのか。
18王者に向かって「ならず者」と言い
貴い方に向かって「逆らう者」と言うのか。
19身分の高い者をひいきすることも
貴族を貧者より尊重することもないお方
御手によってすべての人は造られた。
20これらの人も瞬く間に
しかも真夜中に、死んでいく。
権力ある者は身を震わせて消え去り
力ある者は人の手によらず、退けられる。
21神は人の歩む道に目を注ぎ
その一歩一歩を見ておられる。
22悪を行う者が身を隠そうとしても
暗黒もなければ、死の闇もない。
23人は神の前に出て裁きを受けるのだが
神はその時を定めてはおられない。
24数知れない権力者を打ち倒し
彼らに代えて他の人々を立てられる。
25彼らの行いを知っておられるので
夜の間にそれを覆し、彼らを砕き
26神に逆らう者として
見せしめに、彼らを打たれる。
27彼らが神に従わず
その道を何ひとつ受け入れなかったからだ。
28その時、弱い者の叫びは神に届き
貧しい者の叫びは聞かれる。
29神が黙っておられるのに
罪に定めうる者があろうか。
神が顔を背けられるのに
目を注ぐ者があろうか
国に対してであれ人間に対してであれ。
30神は、神を無視する者が王となり
民を罠にかけることがないようにされる。
31人が神に対してこう言ったとする。
「わたしは罰を受けました。
もう悪いことはいたしません。
32わたしには見えないことを、示してください。
わたしは不正を行いましたが
もういたしません。」
33この言葉にどう報いるかを決めるのはあなたか。
あなたは神を軽んじているではないか。
態度を決めるのは、わたしではなくあなただ。
よく考えて話しなさい。
34理解ある人はわたしに言うだろう。
知恵ある人はわたしに同意するだろう。
35「ヨブはよく分かって話しているのではない。
その言葉は思慮に欠けている。
36悪人のような答え方をヨブはする。
彼を徹底的に試すべきだ。
37まことに彼は過ちに加えて罪を犯し
わたしたちに疑惑の念を起こさせ
神に向かってまくしたてている。」
35
1エリフは更に言った。
2「神はわたしを正しいとしてくださるはずだ」
とあなたは言っているが
あなたのこの考えは正当だろうか。
3またあなたは言う。
「わたしが過ちを犯したとしても
あなたに何の利益があり
わたしにどれほどの得があるのか。」
4あなたに、また傍らにいる友人たちに
わたしはひとこと言いたい。
5天を仰ぎ、よく見よ。
頭上高く行く雲を眺めよ。
6あなたが過ちを犯したとしても
神にとってどれほどのことだろうか。
繰り返し背いたとしても
神にとってそれが何であろう。
7あなたが正しくあっても
それで神に何かを与えることになり
神があなたの手から
何かを受け取ることになるだろうか。
8あなたが逆らっても、それはあなたと同じ人間に
あなたが正しくても
それは人の子にかかわるだけなのだ。
9抑圧が激しくなれば人は叫びをあげ
権力者の腕にひしがれて、助けを求める。
10しかし、だれも言わない
「どこにいますのか、わたしの造り主なる神
夜、歌を与える方
11地の獣によって教え
空の鳥によって知恵を授ける方は」と。
12だから、叫んでも答えてくださらないのだ。
悪者が高慢にふるまうからだ。
13神は偽りを聞かれず
全能者はそれを顧みられない。
14あなたは神を見ることができないと言うが
あなたの訴えは御前にある。
あなたは神を待つべきなのだ。
15今はまだ、怒りの時ではなく
神はこの甚だしい無駄口を無視なさるので
16ヨブは空しく口数を増し
愚かにも言葉を重ねている。
36
1エリフは更に言葉を続けた。
2待て、もう少しわたしに話させてくれ。
神について言うべきことがまだある。
3遠くまで及ぶわたしの考えを述べて
わたしの造り主が正しいということを示そう。
4まことにわたしの言うことに偽りはない。
完全な知識を持つ方をあなたに示そう。
5まことに神は力強く、たゆむことなく
力強く、知恵に満ちておられる。
6神に逆らう者を生かしてはおかず
貧しい人に正しい裁きをしてくださる。
7神に従う人から目を離すことなく
王者と共に座につかせ
とこしえに、彼らを高められる。
8捕われの身となって足枷をはめられ
苦悩の縄に縛られている人があれば
9その行いを指摘し
その罪の重さを指し示される。
10その耳を開いて戒め
悪い行いを改めるように諭される。
11もし、これに耳を傾けて従うなら
彼らはその日々を幸いのうちに
年月を恵みのうちに全うすることができる。
12しかし、これに耳を傾けなければ
死の川を渡り、愚か者のまま息絶える。
13神を無視する心を持つ者は
鎖につながれていても
怒りに燃え、助けを求めようとしない。
14彼らの魂は若いうちに死を迎え
命は神殿男娼のように短い。
15神は貧しい人をその貧苦を通して救い出し
苦悩の中で耳を開いてくださる。
16神はあなたにも
苦難の中から出ようとする気持を与え
苦難に代えて広い所でくつろがせ
あなたのために食卓を整え
豊かな食べ物を備えてくださるのだ。
17あなたが罪人の受ける刑に服するなら
裁きの正しさが保たれるだろう。
18だから注意せよ
富の力に惑わされないように。
身代金が十分あるからといって
道を誤らないように。
19苦難を経なければ、どんなに叫んでも
力を尽くしても、それは役に立たない。
20夜をあえぎ求めるな。
人々がその場で消え去らねばならない夜を。
21警戒せよ
悪い行いに顔を向けないように。
苦悩によって試されているのは
まさにこのためなのだ。
22まことに神は力に秀でている。
神のような教師があるだろうか。
23誰が神の道を見張り
「あなたのすることは悪い」と言えようか。
24世の人は神の御業に賛美の歌をうたう。
あなたも心して、ほめたたえよ。
25人は皆、御業を仰ぎ
はるかかなたから望み見ている。
26まことに神は偉大、神を知ることはできず
その齢を数えることもできない。
27神は水滴を御もとに集め
霧のような雨を降らす。
28雲は雨となって滴り
多くの人の上に降り注ぐ。
29どのように雨雲が広がり
神の仮庵が雷鳴をとどろかせるかを
悟りうる者があろうか。
30神はその上に光を放ち
海の根を覆われる。
31それによって諸国の民を治め
豊かに食べ物を与えられる。
32神は御手に稲妻の光をまとい
的を定め、それに指令し
33御自分の思いを表される。
悪に対する激しい怒りを。
37
1それゆえ、わたしの心は
破れんばかりに激しく打つ。
2聞け、神の御声のとどろきを
その口から出る響きを。
3閃光は天の四方に放たれ
稲妻は地の果てに及ぶ。
4雷鳴がそれを追い
厳かな声が響きわたる。
御声は聞こえるが、稲妻の跡はない。
5神は驚くべき御声をとどろかせ
わたしたちの知りえない
大きな業を成し遂げられる。
6神は命じられる。
雪には、「地に降り積もれ」
雨には、「激しく降れ」と。
7人の手の業をすべて封じ込め
すべての人間に御業を認めさせられる。
8獣は隠れがに入り、巣に伏す。
9嵐がその蓄えられている所を出ると
寒さがまき散らされる。
10神が息を吹きかければ氷ができ
水の広がりは凍って固まる。
11雲は雨を含んで重くなり
密雲は稲妻を放つ。
12雨雲はここかしこに垂れこめ
導かれるままに姿を変え
命じられるところを
あまねく地の面に行う。
13懲らしめのためにも、大地のためにも
そして恵みを与えるためにも
神はこれを行わせられる。
14ヨブよ、耳を傾け
神の驚くべき御業について、よく考えよ。
15あなたは知っているか
どのように神が指図して
密雲の中から稲妻を輝かせるかを。
16あなたは知っているか
完全な知識を持つ方が
垂れこめる雨雲によって
驚くべき御業を果たされることを。
17南風が吹いて大地が黙すときには
あなたの衣すら熱くなるというのに
18鋳て造った鏡のような堅い大空を
あなたは、神と共に
固めることができるとでもいうのか。
19神に何と申し上げるべきかを
わたしたちに言ってみよ。
暗黒を前にして
わたしたちに何の申し立てができようか。
20わたしが話したとしても
神に対して説明になるだろうか。
人間が何か言ったところで
神が言い負かされるだろうか。
21今、光は見えないが
それは雲のかなたで輝いている。
やがて風が吹き、雲を払うと
22北から黄金の光が射し
恐るべき輝きが神を包むだろう。
23全能者を見いだすことはわたしたちにはできない。
神は優れた力をもって治めておられる。
憐れみ深い人を苦しめることはなさらない。
24それゆえ、人は神を畏れ敬う。
人の知恵はすべて顧みるに値しない。
38
主なる神の言葉
1主は嵐の中からヨブに答えて仰せになった。
2これは何者か。
知識もないのに、言葉を重ねて
神の経綸を暗くするとは。
3男らしく、腰に帯をせよ。
わたしはお前に尋ねる、わたしに答えてみよ。
4わたしが大地を据えたとき
お前はどこにいたのか。
知っていたというなら
理解していることを言ってみよ。
5誰がその広がりを定めたかを知っているのか。
誰がその上に測り縄を張ったのか。
6基の柱はどこに沈められたのか。
誰が隅の親石を置いたのか。
7そのとき、夜明けの星はこぞって喜び歌い
神の子らは皆、喜びの声をあげた。
8海は二つの扉を押し開いてほとばしり
母の胎から溢れ出た。
9わたしは密雲をその着物とし
濃霧をその産着としてまとわせた。
10しかし、わたしはそれに限界を定め
二つの扉にかんぬきを付け
11「ここまでは来てもよいが越えてはならない。
高ぶる波をここでとどめよ」と命じた。
12お前は一生に一度でも朝に命令し
曙に役割を指示したことがあるか
13大地の縁をつかんで
神に逆らう者どもを地上から払い落とせと。
14大地は粘土に型を押していくように姿を変え
すべては装われて現れる。
15しかし、悪者どもにはその光も拒まれ
振り上げた腕は折られる。
16お前は海の湧き出るところまで行き着き
深淵の底を行き巡ったことがあるか。
17死の門がお前に姿を見せ
死の闇の門を見たことがあるか。
18お前はまた、大地の広がりを
隅々まで調べたことがあるか。
そのすべてを知っているなら言ってみよ。
19光が住んでいるのはどの方向か。
暗黒の住みかはどこか。
20光をその境にまで連れていけるか。
暗黒の住みかに至る道を知っているか。
21そのときお前は既に生まれていて
人生の日数も多いと言うのなら
これらのことを知っているはずだ。
22お前は雪の倉に入ったことがあるか。
霰の倉を見たことがあるか。
23災いの時のために
戦いや争いの日のために
わたしはこれらを蓄えているのだ。
24光が放たれるのはどの方向か。
東風が地上に送られる道はどこか。
25誰が豪雨に水路を引き
稲妻に道を備え
26まだ人のいなかった大地に
無人であった荒れ野に雨を降らせ
27乾ききったところを潤し
青草の芽がもえ出るようにしたのか。
28雨に父親があるだろうか。
誰が露の滴を産ませるのか。
29誰の腹から霰は出てくるのか。
天から降る霜は誰が産むのか。
30水は凍って石のようになり
深淵の面は固く閉ざされてしまう。
31すばるの鎖を引き締め
オリオンの綱を緩めることがお前にできるか。
32時がくれば銀河を繰り出し
大熊を子熊と共に導き出すことができるか。
33天の法則を知り
その支配を地上に及ぼす者はお前か。
34お前が雨雲に向かって声をあげれば
洪水がお前を包むだろうか。
35お前が送り出そうとすれば
稲妻が「はい」と答えて出て行くだろうか。
36誰が鴇に知恵を授け
誰が雄鶏に分別を与えたのか。
37誰が知恵をもって雲を数え
天にある水の袋を傾けるのか。
38塵が溶けて形を成し
土くれが一塊となるように。
39お前は雌獅子のために獲物を備え
その子の食欲を満たしてやることができるか。
40雌獅子は茂みに待ち伏せ
その子は隠れがにうずくまっている。
41誰が烏のために餌を置いてやるのか
その雛が神に向かって鳴き
食べ物を求めて迷い出るとき。
39
1お前は岩場の山羊が子を産む時を知っているか。
雌鹿の産みの苦しみを見守ることができるか。
2月が満ちるのを数え
産むべき時を知ることができるか。
3雌鹿はうずくまって産み
子を送り出す。
4その子らは強くなり、野で育ち
出ていくと、もう帰ってこない。
5誰が野生のろばに自由を与え
野ろばを解き放ってやったのか。
6その住みかとして荒れ地を与え
ねぐらとして不毛の地を与えたのはわたしだ。
7彼らは町の雑踏を笑い
追い使う者の呼び声に従うことなく
8餌を求めて山々を駆け巡り
緑の草はないかと探す。
9野牛が喜んでお前の僕となり
お前の小屋で夜を過ごすことがあろうか。
10お前は野牛に綱をつけて畝を行かせ
お前に従わせて谷間の畑を
掘り起こさせることができるか。
11力が強いといって、頼りにし
仕事を任せることができるか。
12野牛が穀物をもたらし
実りを集めてくれると期待するのか。
13駝鳥は勢いよく羽ばたくが
こうのとりのような羽毛を持っているだろうか。
14駝鳥は卵を地面に置き去りにし
砂の上で暖まるにまかせ
15獣の足がこれを踏みつけ
野の獣が踏みにじることも忘れている。
16その雛を
自分のものではないかのようにあしらい
自分の産んだものが無に帰しても
平然としている。
17神が知恵を貸し与えず
分別を分け与えなかったからだ。
18だが、誇って駆けるときには
馬と乗り手を笑うほどだ。
19お前は馬に力を与え
その首をたてがみで装うことができるか。
20馬をいなごのように跳ねさせることができるか。
そのいななきには恐るべき威力があり
21谷間で砂をけって喜び勇み
武器に怖じることなく進む。
22恐れを笑い、ひるむことなく
剣に背を向けて逃げることもない。
23その上に箙が音をたて
槍と投げ槍がきらめくとき
24身を震わせ、興奮して地をかき
角笛の音に、じっとしてはいられない。
25角笛の合図があればいななき
戦いも、隊長の怒号も、鬨の声も
遠くにいながら、かぎつけている。
26鷹が翼を広げて南へ飛ぶのは
お前が分別を与えたからなのか。
27鷲が舞い上がり、高い所に巣を作るのは
お前が命令したからなのか。
28鷲は岩場に住み
牙のような岩や砦の上で夜を過ごす。
29その上から餌を探して
はるかかなたまで目を光らせている。
30その雛は血を飲むことを求め
死骸の傍らには必ずいる。
40
1ヨブに答えて、主は仰せになった。
2全能者と言い争う者よ、引き下がるのか。
神を責めたてる者よ、答えるがよい。
3ヨブは主に答えて言った。
4わたしは軽々しくものを申しました。
どうしてあなたに反論などできましょう。
わたしはこの口に手を置きます。
5ひと言語りましたが、もう主張いたしません。
ふた言申しましたが、もう繰り返しません。
6主は嵐の中からヨブに答えて仰せになった。
7男らしく、腰に帯をせよ。
お前に尋ねる。わたしに答えてみよ。
8お前はわたしが定めたことを否定し
自分を無罪とするために
わたしを有罪とさえするのか。
9お前は神に劣らぬ腕をもち
神のような声をもって雷鳴をとどろかせるのか。
10威厳と誇りで身を飾り
栄えと輝きで身を装うがよい。
11怒って猛威を振るい
すべて驕り高ぶる者を見れば、これを低くし
12すべて驕り高ぶる者を見れば、これを挫き
神に逆らう者を打ち倒し
13ひとり残らず塵に葬り去り
顔を包んで墓穴に置くがよい。
14そのとき初めて、わたしはお前をたたえよう。
お前が自分の右の手で
勝利を得たことになるのだから。
15見よ、ベヘモットを。
お前を造ったわたしはこの獣をも造った。
これは牛のように草を食べる。
16見よ、腰の力と腹筋の勢いを。
17尾は杉の枝のようにたわみ
腿の筋は固く絡み合っている。
18骨は青銅の管
骨組みは鋼鉄の棒を組み合わせたようだ。
19これこそ神の傑作
造り主をおいて剣をそれに突きつける者はない。
20山々は彼に食べ物を与える。
野のすべての獣は彼に戯れる。
21彼がそてつの木の下や
浅瀬の葦の茂みに伏せると
22そてつの影は彼を覆い
川辺の柳は彼を包む。
23川が押し流そうとしても、彼は動じない。
ヨルダンが口に流れ込んでも、ひるまない。
24まともに捕えたり
罠にかけてその鼻を貫きうるものがあろうか。
25お前はレビヤタンを鉤にかけて引き上げ
その舌を縄で捕えて
屈服させることができるか。
26お前はその鼻に綱をつけ
顎を貫いてくつわをかけることができるか。
27彼がお前に繰り返し憐れみを乞い
丁重に話したりするだろうか。
28彼がお前と契約を結び
永久にお前の僕となったりするだろうか。
29お前は彼を小鳥のようにもてあそび
娘たちのためにつないでおくことができるか。
30お前の仲間は彼を取り引きにかけ
商人たちに切り売りすることができるか。
31お前はもりで彼の皮を
やすで頭を傷だらけにすることができるか。
32彼の上に手を置いてみよ。
戦うなどとは二度と言わぬがよい。
41
1勝ち目があると思っても、落胆するだけだ。
見ただけでも打ちのめされるほどなのだから。
2彼を挑発するほど勇猛な者はいまい。
いるなら、わたしの前に立て。
3あえてわたしの前に立つ者があれば
その者には褒美を与えよう。
天の下にあるすべてのものはわたしのものだ。
4彼のからだの各部について
わたしは黙ってはいられない。
力のこもった背と見事な体格について。
5誰が彼の身ごしらえを正面から解き
上下の顎の間に押し入ることができようか。
6誰がその顔の扉を開くことができようか。
歯の周りには殺気がある。
7背中は盾の列
封印され、固く閉ざされている。
8その盾は次々と連なって
風の吹き込む透き間もない。
9一つの盾はその仲間に結びつき
つながりあって、決して離れない。
10彼がくしゃみをすれば、両眼は
曙のまばたきのように、光を放ち始める。
11口からは火炎が噴き出し
火の粉が飛び散る。
12煮えたぎる鍋の勢いで
鼻からは煙が吹き出る。
13喉は燃える炭火
口からは炎が吹き出る。
14首には猛威が宿り
顔には威嚇がみなぎっている。
15筋肉は幾重にも重なり合い
しっかり彼を包んでびくともしない。
16心臓は石のように硬く
石臼のように硬い。
17彼が立ち上がれば神々もおののき
取り乱して、逃げ惑う。
18剣も槍も、矢も投げ槍も
彼を突き刺すことはできない。
19鉄の武器も麦藁となり
青銅も腐った木となる。
20弓を射ても彼を追うことはできず
石投げ紐の石ももみ殻に変わる。
21彼はこん棒を藁と見なし
投げ槍のうなりを笑う。
22彼の腹は鋭い陶器の破片を並べたよう。
打穀機のように土の塊を砕き散らす。
23彼は深い淵を煮えたぎる鍋のように沸き上がらせ
海をるつぼにする。
24彼の進んだ跡には光が輝き
深淵は白髪をなびかせる。
25この地上に、彼を支配する者はいない。
彼はおののきを知らぬものとして造られている。
26驕り高ぶるものすべてを見下し
誇り高い獣すべての上に君臨している。
42
1ヨブは主に答えて言った。
2あなたは全能であり
御旨の成就を妨げることはできないと悟りました。
3「これは何者か。知識もないのに
神の経綸を隠そうとするとは。」
そのとおりです。
わたしには理解できず、わたしの知識を超えた
驚くべき御業をあげつらっておりました。
4「聞け、わたしが話す。
お前に尋ねる、わたしに答えてみよ。」
5あなたのことを、耳にしてはおりました。
しかし今、この目であなたを仰ぎ見ます。
6それゆえ、わたしは塵と灰の上に伏し
自分を退け、悔い改めます。
結び
7主はこのようにヨブに語ってから、テマン人エリファズに仰せになった。
「わたしはお前とお前の二人の友人に対して怒っている。お前たちは、わたしについてわたしの僕ヨブのように正しく語らなかったからだ。8しかし今、雄牛と雄羊を七頭ずつわたしの僕ヨブのところに引いて行き、自分のためにいけにえをささげれば、わたしの僕ヨブはお前たちのために祈ってくれるであろう。わたしはそれを受け入れる。お前たちはわたしの僕ヨブのようにわたしについて正しく語らなかったのだが、お前たちに罰を与えないことにしよう。」9テマン人エリファズ、シュア人ビルダド、ナアマ人ツォファルは行って、主が言われたことを実行した。そして、主はヨブの祈りを受け入れられた。
10ヨブが友人たちのために祈ったとき、主はヨブを元の境遇に戻し、更に財産を二倍にされた。11兄弟姉妹、かつての知人たちがこぞって彼のもとを訪れ、食事を共にし、主が下されたすべての災いについていたわり慰め、それぞれ銀一ケシタと金の環一つを贈った。
12主はその後のヨブを以前にも増して祝福された。ヨブは、羊一万四千匹、らくだ六千頭、牛一千くびき、雌ろば一千頭を持つことになった。13彼はまた七人の息子と三人の娘をもうけ、14長女をエミマ、次女をケツィア、三女をケレン・プクと名付けた。15ヨブの娘たちのように美しい娘は国中どこにもいなかった。彼女らもその兄弟と共に父の財産の分け前を受けた。
16ヨブはその後百四十年生き、子、孫、四代の先まで見ることができた。17ヨブは長寿を保ち、老いて死んだ。